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ある一族の序章 -番外編-

2019.08.26 09:53|俺屍

番外編




 小さな頃から見ている夢がある。
 将来の夢、ではなく、夜に見る夢。
 平安時代くらいの昔で、京都には帝がいて。
 都の外には鬼がいて人に害を為す。
 自分はそんな鬼どもを退治する一族の生まれで、長い棒のような刀……薙刀というのか、それを振り回して戦う。まるでファンタジー。けど、妙な実感がある。
 家族構成は夢によって変わる。多い時は七人、少ない時は二人。眼鏡をかけたお手伝いさんはいつもいる。他は兄弟らしく、「兄さん」としか呼ばれたことがないので自分は長男なんだろう。
 シリーズ化しているというのか、始まると「あぁ、あれだ」と分かる。
 夢の終わりはいつも決まって白い蝶が出てくる。仄暗い部屋から、こちらに招くようにゆらゆらと――あれは、本当に蝶なんだろうか。



「で、よく見たら、手だったんだよ」
 そう言って、一途はテーブルに身を乗り出した。
 へぇ、と私は気のない返事をして、カフェオレの入ったカップに口を付ける。ほんのり甘くて暖かくて、色も柔らかいこの飲み物が私は大好きだった。
「…誰の手なんだろうなぁ」
「今度、見た時に確かめたら?」
「…でもなぁ、」
 しかし、彼はあまり気が乗る様子ではない。頬杖をついて遠くを見やる。
「あの先は怖い気がしてさ」
「怖い夢だっけ?」
「怖くはないよ。ガキの頃から見てるせいか、見ると安心するくらいで」
「…安心、」
「けど、あの白いチョウチョが出てくると、怖い……っていうか、ザワザワするんだ。不安になる」
 分かる?と彼はこちらを向いて尋ねる。
 分かんないよ、と即答すると、彼は口を尖らせた。一つ年が違うだけのくせにこういう仕草が子どもっぽい人だと思う。
 だいぶ温くなったカップを両手に挟み、暖を取る──興味がなさそうに聞いているが、彼から聞く夢の話は嫌いじゃなかった。むしろ好き。聞いてるとなんだか私も安心する。懐かしい感じ。何でかは分からないけど。
「シュウちゃんが私のイチゴ、取ったあぁぁ!!」
 ふいに子どもの甲高い鳴き声が店内に響いた。私も一途も、店内の客も、そちらに視線を移す。
 四、五歳くらいの女の子と、七歳くらいの男の子。その両親と思われる男性と女性が、店の角席にいた。
「秋司、ダメだろ!」
「違うよ、これはオレんだよぉ」
「お母さんのあげるから泣かないの。ね? 夏野ちゃん」
 そういったやり取りがあって、場は落ち着いたようだった。
「…元気だね」
「…元気だな」
 最初に声を上げた女の子はしゃくりあげながらも、母からもらったイチゴで機嫌を直したらしい。隣に座ったお兄ちゃんがバツが悪そうにスプーンをくわえている。
 兄弟がいない私には何だか羨ましい光景だった。
「カナさんは、なんかそういう夢、見た事ある?」
 ふいに話を振られて私は慌てて顔を上げる。
「ないよ。なんで?」
「いや、何となく」
 言いながら、彼は視線を下に落とした。
 テーブルの上に置かれた彼のカップはとっくに空になっていた。この店に来ると彼はいつも宇治抹茶オレを頼む。味というより、緑色が好きらしい。そう言えば服や小物も緑が多い。それで赤をアクセントにするから、いつもクリスマスカラーだなと思っていたのだ。
「…ホント言うと、もう見れなくなってさ、その夢」
 彼は寂しげに笑って、突然私の手を触れた。びく、と体が固まる。しかし、彼は気にせずに私の手をしげしげと眺めた。
「…でも、この手だ」
 ややあって呟かれた彼の声は、いつもの軽い調子からは想像できないほどに切なげだった。





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