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一本松家 初代 初

2019.08.26 17:43|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花の視点で綴る形式。
 初代 初(はじめ)の記録。1018年4月~1019年2月。




1018年 4月

 一本松家の当主、初(はじめ)様にお会いしたのは、桜も盛りの頃だった。
「これから、よろしくね」
 8か月という年齢のわりに落ち着いた雰囲気の初様とは対照的に、ご息女の壱花(いちか)様は人見知りをしているらしかった。父君の後ろに隠れるようにして、私のことを伺っている。
「ほら、壱花。お手伝いのイツ花さんだよ。ご挨拶なさい」
 そう促されて、壱花様は初様を見上げる。
「いちか? 私と同じ?」
「いえ、私は、イツ花です。五つの花びら、の、イツ、花」
 私は片手を広げて「五」を示す。
「一文字違いだ。音も似ている。偶然とはいえ、姉妹みたいだなぁ」
 壱花様の頭を撫でながら、初様は穏やかに笑った。壱花様も嬉しそうに笑って、私と同じように手を開いて「五」の形にしたのを見せてくれた。似てますね、と私はその小さな手に自分の手を重ねた。
 そうした共通点のおかげか、私たちはすぐに打ち解けることができた。



1018年 5月

 鳥居千万宮では術の巻物を3本持ち帰り、戦果は上々といったところ。初様のご両親から受け継いだ「源太の剣」と「お輪の薙刀」がよく馴染むのか、迷宮攻略はトントン拍子に進んでいる。
 ──そんな一本松家にも問題はあった。
「あーん、また引っ掛かったぁ!」
 壱花様の嘆く声が聞こえ、そちらへ向かうと、鏡台の前に座った彼女と、その後ろで櫛を握りしめ、眉間にしわを寄せる初様がいた。
「ごめん…。量が多くて、」
 はぁ、と初様は息を吐く。
 壱花様の御髪はたっぷりとした深い緑色で、それを二つに結わえるのが彼女のお気に入りの髪型だった。天界にいたときは母君の飛天ノ舞子様に整えてもらっていたらしいが、下界に来てからは初様が頑張っている。
 初様の御髪も長い方だったが、量は少なく、無造作に後ろに縛っているだけだ。だから、成長と共に量も増えた壱花様の髪には毎回苦戦していた。
「私が代わりましょうか?」
 見兼ねて申し出すと、初様は「助かった!」と私に櫛を押し付けた。重責から逃れた初様は、「やれやれ」とすぐさまその場に寝転ぶ。
「もうっ! お父様ったら、不器用なんだから、」
「壱花様も、そろそろご自身で身支度を整えられるようになりませんと。コツを教えてあげますから、練習なさってください」
 壱花様の御髪に櫛を入れながら、私は言った。
 うぐ、と壱花様は小さく呻く。
「そうだぞ、壱花。いつまでも甘えていてはいけない」
「お父様だって、イツ花に何でも頼むじゃない!」
「俺はいいんだよ、当主なんだから」
「うー、ずるい~」
 そう言いながらも、結ばれ慣れているのか、壱花様の頭は動かない。量が均等になるように、櫛の柄の方で真ん中に分ける。
「…そのうち、全部、君に譲るさ」
 初様は、小さく言って、少しだけ笑った。 



1018年 7月

 一本松家の親子は着実に迷宮を攻略しながら、力をつけていった。来月には壱花様も成人となり、そろそろ交神相手を考える時期となる。が、ご本人はあまり乗り気ではないらしい。
「私とお父様で呪いを解いてしまえば、必要ないと思うんだけど」
 幼い頃から人見知りの質がある壱花様は、そういう意味でも交神には乗り気ではないようだった。この頃は雑務をする私のところへ来ては、ぶちぶちと愚痴るのが日課となっている。
「なのに、“早く孫の顔が見たいなぁ”なんて…。人の気も知らないで。ひどいと思わない?」
 それを聞いても、私は何とも答えられず、ただ苦笑を返すしかなかった。
 一本松家が背負わされた運命を思えば、初様と壱花様だけで朱点の呪いを解けるとは到底思えない。「孫の顔が見たい」という初様の願いも、彼らの短命の呪いを考えれば、呑気な願いなどとも言っていられない──恐らく、このまま行けば、初様は次の桜を見ることはないだろう。
「…ねぇ、イツ花。交神の儀ってどういうことをするの?」
 夕食の下拵え──サヤエンドウの筋取り、を手伝いながら、壱花は不安そうに尋ねた。
「さぁ…? 私もまだやったことがありませんから…。初様に聞いてみれば?」
「えぇっ。それは聞きづらいよぉ…」
と、壱花様は俯いて顔を赤くさせた。筋を取り終わったエンドウを一つ籠に放る。
「だって、お父様は男の方だし……」
 そこまで聞いて、なるほど、と私は会得する。普通のヒトの交配の話を、どこかで聞いてきたのかもしれない。誤解を正すためにも話しておく必要があるかもしれない。
「私は巫女なので、あくまでも知る限りのことしか教えられませんが──まず、交神の儀は通常のヒトとのまぐあいとは違います。遺伝子情報の交換ですから、血の一滴、唾液一滴でも子は成せます」
「こ、交換…」
 壱花様はさらに顔を赤くさせる。
 直接、肉体のやりとりをする必要はないんですよ、と念を押して、私は続けた。
「魂の器、のようなものが、ありまして。中には生命の源と呼ばれる液体が入ってます。そこに遺伝子情報を伝えるものを相互に入れると、一月後には赤子ができているそうです」
「…私もそうやって、生まれたの?」
「だと思いますよ」
「ふーん…」
 相槌を打って、壱花様はついっと、エンドウの筋を取る。
「イツ花も、したことある?」
「まさか。私はただのヒトですから。私ができることはあちらとこちらを繋ぐことだけです」
 そう、と壱花様は息を吐いた。けれど、顔を上げて、笑顔を見せる。
「そう聞くと意外と簡単そうね」
「そうです、そうです。難しく考えなくていいんです」
 安心したふうの壱花様であったが、突然はっと顔を強張らせる。
「でも、それだけのことにどうして一月も必要なの…?」
「あちらとこちらとでは時間の流れが違うんです。こちらの一月が、あちらでは一週間くらい…だとか」
「それでも、一週間あるのっ!?」
「終わってすぐに戻って来ても構いませんし、お母様のところへ顔を見せに行っても構いませんし」
「お母様のとこに行っていいの?」
「あとはまぁ、お相手の方とご相談して…。大抵のことは引き受けていただけるかと思いますよ」
 最後の一つの筋取りを終え、私は籠を持って立ち上がった。
「もうお相手の方はお決まりなのですか?」
「まだ…、全然…」
「大丈夫ですよ」
 私はそう言って、幼な子にするように──実際、壱花様の幼い頃には何度かした──彼女の頭に、そっと手を乗せて撫でた。
「こんなにかわいい壱花様ですもの。きっとお相手の方も好きになってくださいます」
「身内の欲目、っていうのよ、それ」
 壱花様はくすぐったそうに笑って言った。



1018年 9月

 今月は壱花様の交神の儀を行う予定である。お相手は風の神、やたノ黒蝿様。
 あれだけ交神を渋っていた壱花様だったが、先月の九重楼討伐の際、解放されたやた様に一目惚れしたらしい。「行ってきまーす!」と嬉しそうに屋敷を出て行かれた。
 一方、そわそわと落ち着かなかったのが初様だ。
「孫の顔は早く見たいと思っていたけど、……複雑だなぁ」
 娘を嫁に出す世の父親とは、みんなこういう感情を抱くのかもしれない。
 一か月後、壱花様は晴れやかな表情でお帰りになった。
 久々に家族揃って食卓を囲む。
「はぁ。やっぱりうちが一番落ち着く」
 私の淹れたお茶を飲んで、壱花様は一息ついた。
「子どもは来月、うちに来るわ。男の子よ! 目がお父様にそっくりなの!」
 壱花様のご様子に、私は内心で安堵していた。──先月はああ言ったが、神様も多種多様。一族の者から指名されたら交神を拒むことはできないが、儀式でどんな態度を取ろうが、どんな言葉を吐こうが、そこまで縛ることはできない。
「儀式の場所──天界と地上の狭間だと教えられたけど、不思議なところね。常春というの? 暖かくて空気が柔らかで、とても居心地がよかった。こちらに戻ったら空気が冷たくて、びっくりしちゃった」
「あの空間はお相手の方が用意して下さるものなんですよ。神様によって環境はそれぞれだそうです。壱花様に気に入っていただけたのなら、やた様もお喜びでしょう」
「あら、そうなの?」
 お礼、言い忘れちゃった、と壱花様は顔を赤めらせた。──それなりに仲睦まじく過ごされたらしい。
「お母様にもご挨拶できたの。やた様が案内してくださって、」
「あぁ、そうなの? 舞ちゃん、元気だった?」
「はい、もちろん。……って、“舞ちゃん”?」
 そこまでニコニコと娘の話を聞いていた初様がようやく口を開いた。
「そう。飛天ノ舞子だから、“舞ちゃん”」
「お父様、お母様のこと、そんな風に呼んでたの…」
 夫婦の仲になるといっても相手は神である。その相手に軽々し過ぎなのではないか、と壱花様は言いたいのだろう。
 初様は気にする様子もなく、男の子かぁ、とまだ見ぬ孫を思って嬉しそうに目を細めた。



1018年 11月

「ね、お父様にそっくりでしょ?」
 来訪した壱花様のご子息は母君譲りの緑髪に、祖父の初様によく似た切れ長の双眸をしていた。その眼の奥には芯の強さを感じさせる。
「これが初孫…!」
 直接触れるのは憚られるのか、初様は空中に手をわきわきさせてお孫様に対峙している。不審に感じたらしい花成様は、すぐに母親の後ろに隠れてしまった。私は幼い時の壱花様を思い出す。
「名は花成(かせい)。私の字を一つあげるわね」
 壱花様は後ろに隠れた息子の頭を愛おしそうに撫でた。
「早速だけど、君はお留守番だ。イツ花、この子をよろしく」
「自習をサボらないように見張っててね」
 出陣の準備を整えたお二人の行き先は大江山。一族の、真の仇が住まう場所。年に2ヶ月しか開かれない今、この機会を逃すのは惜しいと初様は判断した。
「花成様がいらしたのだから、ごゆっくりなさればいいのに…」
「花成が来たからこそだよ。なぁ、壱花?」
「そうね…。この子のためにも、早く悲願を達成しないと、」
 そうして、お二人は連れ立って冬の大江山へ向かって行った。花成様の手をとって、どうかご無事で、と私は小さく祈った。
 翌朝から花成様はお一人で稽古を始めた。朝に身体を動かすと頭もスッキリしますよ、という私の勧めに従って、朝は武道の、昼は手習いの勉強を進めた。
 真面目な性格なのか、黙々と一人でこなすので、手がかからない。……と思いきや、座っているのは苦手なのか、時たま昼の手習いをサボって、薙刀を振るう姿が見られた。体を動かす方がお好きらしい。
「大江山ってどんなところかな?」
「今は冬だから、雪が積もっていると思います。きっとお寒いでしょうね」
「お祖父様も母上も、風邪など引いてないだろうか…?」
 夕飯時などにはそのような弱気な発言をすることもあった。気丈に見えてもまだ幼い。心細さは見て取れた。大丈夫ですよ、と私は気休めの言葉を吐く。
 討伐隊が戻って来たのは月も半ばを過ぎた頃。新しい術の巻物を3本手に入れ、大江山の攻略は順調そうに見えた。お二人も手応えを感じてるご様子。
「……嫌です!!」
 壱花様の悲痛な叫びが屋敷に響いたのは、その夜のことだった。聴こえてきたのは奥の小さな座敷。当主様の部屋。
 居間にいた私と花成様は、何事かと思い、互いに顔を見合わせた。不安そうな花成様に付いていく形で、奥へ向かう。
 部屋の前まで来て、壱花様の啜り泣く声が聞こえた。嫌です、と何度も繰り返して。
 花成様は思わず足を止めた。
「──花成、イツ花。そこにいるのだろう? 入って来なさい」
 襖の向こうから初様に声を掛けられて、花成様は私を見た。私が頷くと、彼はそっと当主様の部屋の扉を開いた。
 部屋の真ん中に初様は座っていた。その前には壱花様。直前まで身体を伏せて泣いていたらしいが、息子の姿を見ると姿勢を正した。それでも、その目の周りは真っ赤に腫れている。
 座りなさい、と初様は穏やかに促した。
「来月の話をしていた。来月は、山には行かない」
 嫌です、と間髪入れずに壱花様は言った。
 花成様は理解できていないようだった。
 聞きなさい、と初様は静かに続ける。
「来月は俺か壱花が、花成の訓練をつけよう。その方が力もつく…、」
「いいえ! 大江山へ行くべきです。……あと少しではありませんか。どうしてここで引き下がる必要がありますか!?」
「あの坂の先に大きな鬼の気配がする……。壱花も感じただろう?」
「そんなの、私が、」
「あの辺りの雑魚ですら、ギリギリ倒せる程度だ。今年は無理だよ、壱花」
「嫌です、そんなの…、そうしたら、お父様は…….、」
 そこまで言って、耐え切れなかったのだろう、壱花様の目から涙が溢れた。
 今年の大江山を見送る、ということは、つまり──。初様のご年齢は1歳5ヶ月。来年には到底間に合わない。
 静かに話を聞いていた花成様も事態を理解したらしい。姿勢こそ崩さなかったが、その目には涙の膜が張っていた。
「聞きなさい、壱花。恐らく無理をすれば、あの先へ進めるだろう。しかし、それで悲願を果たしてどうする? 花成を一人残して逝く気なのか?」
 はっ、と壱花様は顔を上げる。
「…俺は、父の顔も、母の顔も知らない」
 困ったように初様は笑う。
「どうか聞き分けてくれ…」
 ──翌月、花成様の訓練を初様が引き受け、壱花様は一人で九重楼へ出立した。その目にはもう迷いは感じられなかった。



1019年 1月

 世間様と異なり、一本松家に「お正月休み」という考えはない。正月でも関係なく、戦いは続く。
 とはいえ、新年を迎えると、少し気持ちが入れ替わるような気がするのは確かだった。町内会でもらったお餅や屋敷の前に飾られた門松も、その気持ちに拍車をかけた。
 めでたい雰囲気の中、めでたくないこともあった。初様の健康度が下がったのだ。
「これくらい薬を飲めば、すぐに元気になるさ」
 初様はそう言って漢方屋で購入した千金人参を一息に飲んだ。
 今月は花成様の初陣でもある。体調を気遣う壱花様を押しやって、三代で出陣を果たした。



1019年 2月

 討伐隊が戻るなり、初様は後ろへ仰け反るようにして倒れ込んだ。頭を強く打ち付けてなかったのが幸いだ。強度の高い防具に感謝するしかない。
 初様はぐったりとしたまま動かなくなり、壱花様と私で慌てて運び、布団の上に寝かせた。
「先月の終わりで帰ってくればよかった…! 続けて討伐なんかするから、無理が祟ったんだわ!」
 目に涙を溜めて壱花様は言った。
 祖父に付き添う母君の分まで、花成様は武具の荷解きを引き受けた。その手伝いをしている時、ぽつんと彼は呟いた。
「…お祖父様は、死期が近いことがわかってたから、無理をしたんだと思う」
 ──私も、そう思っていた。
 いよいよ、という時になって、初様は当主ノ指輪を外して、私に託した。
「これを……娘──壱花に、」
 病床の初様の息は荒かった。
 伸ばされた彼の手を、私は思わず掴む。
「あの子を……娘を、頼む……!」
 初様の目には涙が浮かんでいた。
「壱花は泣き虫だから……あの子を、どうか支えてやってくれ……」
 掴んだ手の力はだんだんと弱くなる──壱花様を、花成様を呼ばなくては、と思いながらも、彼の視線から目が離せなかった。
「イツ花、……」
 初様は一言。
 そして、私の頭を撫でた。
 ──まるで娘を慈しむように。







一本松家
信条:大死一番
 一本松家の初代当主。
 過酷な運命を背負われたにしては大様な人物。元から自分の代で悲願が達成するとは思っていなかった。娘に対して「君」という二人称を使う男。
 1年目の大江山攻略を見送る決断に関しては、自身のこと以上に、娘の壱花のことを案じていた。今際の際でイツ花に託したのが彼の本心。あのあと、家族を呼んで、例の遺言を残して逝去。
 イツ花に対しては、姉→娘(壱花の姉的な)のような感覚を持っていて、全幅の信頼を寄せていた。


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