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一本松家 2代目 壱花

2019.08.27 21:09|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花の視点で綴る形式。
 2代目 壱花(いちか)の記録。1019年3月~1019年8月。





1019年 3月

 一族の葬儀は略式で、というのが初様の遺言に従って、月の初めに彼は弔われた。遺体は焼いて灰にした後、都からほど近い山中に埋められた。読経も線香もない代わりに、道中で花成様が摘んだ黄色の小さな花が添えられた。
「当主様、今月のご予定はいかがなさいますか?」
 屋敷に戻って荷解きをする壱花様に尋ねると、彼女は一瞬きょとんとした表情を返した。が、すぐに切り替えて、九重楼へ、と一言告げた。
「少し長めに行って、頂上まで登ってみるわ。花成もだいぶ強くなったし、」
と、壱花様は苦笑する。
「わかってたけど、まだ慣れないわね、その呼び名」
 その右手の人差し指には、当主ノ指輪がハマっていた。



1019年 4月

 花成様の朝稽古の習慣はずっと続いていて、基礎練習と薙刀の素振りはまさに「朝飯前」のことのようだった。今やその能力は母君と引けを取らない。
「お祖父様がいなくなった分、私が母上を守らなくてはね」
 武具の手入れをしながら、花成様は自分に言い聞かせるようにそう言った。



1019年 6月

 迷宮の攻略は順調に進んでいた。先月の討伐では拳の指南書に引き続き、槍の指南書も手に入れ、職業選択が増え、戦略の幅も広がるように思えた。来月には花成様はご成人を迎え、交神の儀を控えている。
 そんな中、都では流行病が猛威を振るった。一本松家もその脅威からは逃れられず、壱花様が病に罹られた。
「母上、今月は私が一人で行きますから、」
「何を言ってるの。今月は白骨城! 夏にしか現れない迷宮なのだから、頂上まで登ります!」
「なんでそんな頂上にこだわるかな…」
 九重楼といい、白骨城といい、確かに壱花様は高い迷宮に行くと、てっぺんが見たくなる性分らしい。
「家で寝てる方が具合を悪くします。身体を動かしてた方が調子がいいの!」
 そう言う壱花様に押し切られて、お二人は出立した。
 頂上までは辿り着けたらしいが、大きな鬼の気配がして引き返したとのこと。途中の恨み足、右カイナ・左カイナは見事に討ち果たした。
 来月はとうとう花成様の交神である。
「どなたにするか、決まっているの?」
「えーっと…、それは、」
「当てて見せましょうか? あなたは面食いだからねぇ、」
「母上、やめてくださいっ」
 夕飯時にはそんな軽口を言い合う余裕さえあった。
 和やかな時間は、しかし、表面的なものに過ぎなかった。



1019年 7月

 母上はもたないかもしれない、と暗い顔で花成様は言った。交神の儀へ向かう道中のことである。
 先月に罹患した流行病は、今月にはもう快復していた。しかし、健康度がなかなか戻らないのである。薬の効きも悪い。
「お祖父様が逝ったのが1歳6ヶ月。母上は、今月、1歳7ヶ月になる。……なぁ、イツ花。短命の呪いって、実際、どこまで生きられるんだ?」
「人によって差はありますが、1年半から2年と私は聞いております」
「……そうか、なら」
と、そこまで言って、花成様は言葉を切る。
「…母上に、孫の顔を見せられるだろうか」
「花成様…」
 彼は暗い顔で息を吐く。
 もう!と私は振り返って、花成様の頬を両手で押し上げた。
「親思いも結構ですが、今から交神の儀なのですよ! そんな暗い顔でお会いになるのは、相手の方に失礼では!?」
 むにむにと花成様の頬を揉み上げながら、続ける。
「儀式に必ずしも感情は必要ありませんけども! 神事なのですから、お気持ちをお入れくださいっ!!」
「わ、わかった。わかったから、離してくれっ」
 花成様は必死で私の手を押し退けた。揉まれた頬を自分で確かめがら、苦笑いを私に向ける。
「イツ花には敵わないなぁ」
「当たり前です。いつからお世話なさってると思ってるんですか。オネショした布団を替えてさしあげた日を、私は忘れませんよ!」
「それはもう忘れてほしいな…」
 ふぅ、と息を吐いて、花成様は顔を上げる。
「だが、そうだな。沈んだままでは、お相手の方に失礼だ。切り替えよう」
 そうこうしているうちに、儀式の場を辿り着いた。
 扉の先には花成様のお相手、鳴門屋渦女様がいることだろう。
 では行ってくる、と彼は私に告げて、扉を開けた。
 「母をよろしく」と最後に付け加えて。
 その面差しに、初代様のことを、少し思い出した。



1019年 8月

 8月を迎えても、壱花様の具合はまだ快復しなかった。
 帝が主催する朱点童子公式討伐隊選考会には、花成様がお一人で出られることになった。
「まぁ、そこらの一般人にあなたが負けるとは思わないけど、」
 気をつけてね、と多大なる期待を掛けて、壱花様は自慢の息子を送り出した。
 奥座敷には布団が敷きっぱなしになっていた。寝ていれば治るから、と壱花様は日中ほとんど身体を横たえている。夏だというのにその手足は冷たく、血が通ってないように思えた。
「お父様もこんな気持ちだったのかしら…」
 冷たい壱花様の足をさすっていたら、彼女はふとそんなことを口にした。
「子どもが大きくなって、一人で戦に行けるようになって……寂しいというか、頼もしいというか、」
「ふふ、親心は複雑ですね」
「…本当に、」
 ぽろ、と壱花様の目から、大粒の涙がこぼれた。
「ごめんなさい…、でも、」
 言葉は続かず、壱花様の瞳からは次から次へと涙があふれた。私は慌てて、手拭いをその頬に押し当てる。
 イツ花、と壱花様は私の胸に顔を埋めた。
「…私、死にたくない。死にたくないよ、イツ花…!」
 壱花様の肩にそっと手を添える。その肩は小さく震えていた。
「もっとあの子の大きくなるところが見たい。せめて来月の、孫娘の顔が見たい…! ずっと一緒にいたいのに、どうして……」
 泣きじゃくる壱花様の頭を、私は撫でることしかできなかった。壱花様は気が済むまで、ずっとそうして泣いていた。
 花成様は会場で圧倒的な強さを見せつけ、初参戦にして一本松家は優勝を果たした。
 その報告を病床で聞く壱花様はもうすっかり落ち着いていて、さすがね、と息子に賛辞の言葉を述べた。
「私がいなくなっても、これからもしっかりやってくださいね」
 その言葉を最後に、壱花様は二度と目を覚まさなかった。






02i
壱花(いちか)
 好物:玉子焼き
 1歳2ヶ月で2代目当主に就任。薙刀士。
 母神、飛天ノ舞子から引き継いだ技の風の強さで、お輪の薙刀、ブンブン刀、かまいたちを使い熟す。
 ややファザコン気味であり、交神相手のやたノ黒蝿も父に似ているとこで一目惚れしたっぽい(自覚はない)。
 イツ花のことは姉のように思い、慕っていた。
 孫娘には会えないまま逝去。享年1歳8ヶ月。


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