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一本松家 4代目 静花

2019.08.29 22:43|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花の視点で綴る形式。
 4代目 静花(しずか)の記録。1020年7月~1021年5月。





1020年 7月

 花成様の葬儀を終えた翌月、静花様のご子息がやってきた。褐色の肌に深緑の髪、青い目だけが静花様と異なる。
「先代から一字もらって、“大成”(たいせい)と名付けましょう。しっかり励んで、強くおなり」
 2ヶ月続けて、静花様は大成様の訓練を施した。
 大成様は頬が柔らかく、その感触がお気に入りなのか、静花様は事あるごとに触っていらした。



1020年 9月

「おまえ、弱いわね」
 初陣を終えて帰ってくるなり、静花様ははっきりと言い放った。慣れた手付きで武具を外していく。
 がーん、と大成様は衝撃を受けたまま、固まってしまった。
「技の伸びが悪い。武器も使いこなせてない。なぜ?」
「な、なんてことを…」
 容赦ない静花様の言葉に、薙刀を握りしめながら、大成様の目はうるうると涙目になっていく。
「だって、爆円様と私の子にしては……あ、神事で交わっちゃったから、その悪影響?」
「子どもの前ですよ!?」
 私が嗜めると、ふぅ、と静花様は息を吐いた。しゃがみこんで、うるうるする大成様の頬を両手で包み込む。
「こんなことで泣くんじゃないよ」
「誰のせいだと……」
 手拭いで大成様の涙を拭き取りながら、私は言う。
 ひくっ、と声を詰まらせて、大成様は母親を見る。
「お、おれ、頑張って、強くなる…から。技も覚える……だから、母ちゃん……」
「うんうん、おまえがその気なら、きっと大丈夫」
 ひしっと息子を抱き締めて、静花様はその頭を撫でた。
 えーん、と声を上げて泣く大成様。
「──ということで、明日から特訓だね」
 大成様が落ち着いた頃、静花様はビシッとそう告げた。



1020年10月

「母ちゃんは鬼より酷い」
 ぼろぼろになって帰宅した大成様は、土間の隅に隠れて泣きながら言った。大成様が泣くときはここが定位置だった。「泣き言は聞きたくない」と、静花様に以前、一喝されたからだ。
「大成様、せめて荷解きをしましょう。武具を下ろした方が休めますよ…」 
 私に促され、大成様はのろのろと防具を外し始める。
 そこへ、とっくに普段着になった静花様が通りがかった。まだ戦装束の大成様を見て、一言「トロい」と言い放つ。
 うぐ、と大成様の手は止まり、その目に涙の膜が張る。
「大成様、イツ花が、イツ花がお手伝いしましょうね?」
 ぽろりん、と大粒の涙が、大成様の頬を伝って落ちて行った。

 その夜。子どもの泣き声がする──と思って、大成様の寝所を覗くと、静花様が起きていた。
 大成様の布団の横に寝そべって、ぽんぽんとその背中を叩いている。
「子守唄の一つでも歌えればいいんだけどねぇ」
 ふぁ、とあくびを一つ噛み殺したところで、私の姿に気が付いた。
「ごめん。起こした?」
「いえ、」
 小声で問われ、そろそろと親子に近付く。
 大成様は背中を丸めて眠っていた。その目は濡れ、頬には涙の跡が見える。この頃、彼は夜泣きをするようになっていた。
「討伐から帰った日は、特にダメね。気持ちが弱くなってしまって、」
 溜め息を吐いて、静花様は息子の頬を撫でる。
「……普通の家に生まれてたらねぇ、」
 その言葉の先は続かず、晩秋の夜の静けさだけが耳についた。



1020年11月

 こちらへ、と促されて、大成様は当主の部屋へ誘われた。代々の当主の記録や術の巻物などが保管してあるその部屋は、屋敷の一番奥に位置し、日当たりは悪かった。
 大成様は母君の前にちょこんと正座して、私のその少し後ろに控えて座っていた。
「大成、おまえ、いくつになった?」
「5ヶ月です」
 緊張した面持ちで大成様は答えた。5ヶ月、というと……普通のヒトとしては、10歳程度。もっとも、大成様はその年の子よりも幼く見えたが。
 んー、と静花様は一度唸って、天を仰いだ。
 ま、いっか、と小さく言って、息子に向き直る。
「今月、来月と、大江山へ登ります」
 は、と大成様は息を飲む。
 大江山。朱点童子。一族の仇が住まう山。
「おまえはまだ未熟だけども、この間、とても一生懸命修行に励んで力をつけたし、私もこれなら行けると確信しています」
 はい、と答える大成様の表情に不安はない。どちらかと言えば、母に認められ、嬉しい……といったご様子。
 対する静花様の表情は暗かった。
 息を一度吐いて、続ける。
「ですが、闘いはそれで終わりません」
 ん?と大成様は目をパチクリさせる。
 静花様はもう一度息を吐いた。
「これを……おまえに話すかどうか、悩みました。が、話します。山で、万が一のことがあった時、動揺しないように──おそらく、あの山は最後の砦ではありません」
「ど、どういう意味ですか……?」
 大成様は見る見る不安そうな顔になる。
 静花様は淡々と告げる。
「迷宮に入る前に出て来る黄川人とかいう男……彼の言動や、奥に住まう親玉たち。彼らのことを総合して考えると、どうしてもこれで終わりという気がしません。天界はまだ何かを隠している。山を乗り越えても、闘いはまだ続くでしょう」
「そ、それは、」
「山を越えて、呪いが解けるのか、一部が残るのか、まったく分かりません。しかし、これだけは言えます。私はおまえより先に死ぬということです」
 うぐ、と大成様は息と一緒に、涙を飲み込んだ。目に膜が張るが、どうにか落ちないでいる。
「私の父も、祖母も、誰もがそう。一本松家の者は、子より親が先に死ぬ。いい? わかった?」
 静花様は身を乗り出して、息子の手を取った。
 潤んだその目をしっかり見据えて、重ねて言う。
「──だから、おまえは、絶対に、生きて帰る。いいね? 約束よ?」
 その翌月、静花様と大成様は大江山の鬼を倒した。
 静花様が予想した通り、一本松家の長い闘いに、新たな幕が開いたのも、この時だった。



1021年 1月

「無理はダメ!絶対!!」
 焦げついた静花様の毛先をハサミと櫛で整えながら、私は苦笑して大成様の叫びを聞いていた。
 新しく出来た迷宮の内の一つ、紅蓮の祠への討伐は、中程にいる親玉・鳴神小太郎から敗走という形で終わった。
「奥義もあったから、行けたと思ったのに」
 敵の放った花乱火の直撃を受け、静花様は軽度の火傷を負った。髪の先や武具も焦げている。迷宮の特質で火属性の術は威力が増すらしい。
 なお、奥義とは鬼朱点を倒した際に静花様が生み出した、猛毒刃と双光斬のことである。息子に継がせられなくて惜しい、と静花様は嘆いていた。
「俺、自分が弱く生まれた意味がようやく分かったよ…」
 武具についた炭を拭き取りながら、大成様は言う。
「母ちゃんは確かに強いけど、だから無理をするんだ…。迷宮が増えて、敵も強くなった今、あれじゃあ、命がいくつあっても足らねぇよ……」
 俺が止めねば、とその時、大成様は何かを強く決意したらしい。その頬にはまだ、黒い煤がついていた。



1021年 3月

 1月の敗走から一度は持ち直した静花様であったが、3月になって健康度が下がった。私もそろそろかね、と言いながら、新しく入荷した地黄玉金丸という漢方薬を試していた。意外とイケる、と言いつつも、その眉間には皺が寄っており、亡き先代を思い出させた。
「で、お相手は誰にするの?」
 今月で大成様は成人となった。親子の会話のネタは目下、そのお相手のことばかりである。
「母ちゃんのそういうとこ、無神経だよなぁ」
 夕飯の煮魚の身を器用にほぐしながら、大成様は言う。
「何を言ってるの。お相手を誰に選ぶかは、一本松家の将来に関わること。当主の私が気にするのは当然でしょ」
 こちらも器用に煮魚の身をほぐしながら、言う。
 静花様の言い分も分からなくはない。
「今なら、大江山越えのご祝儀で、最高神との交神も可能。おまえは素質が低いのだから、それなりの方を娶らないと、」
「この歳になって思うけど、俺みたいに心の広い男じゃなかったら、家出してたよ?」
 おかわり、と私にお椀を渡して、大成様は言う。
 「母ちゃん、ひどいよな?」と同意を求められても、私は苦笑いを返すしかない。しかし、何やかんやと言い返す大成様には確かな成長を感じる。
「最高神というと、太照天昼子様ですねぇ」
 話題を逸らすように、私はごはんを盛りながら、その名を口にする。
「んー、昼子さんかぁ」
 山盛りのごはんの碗を受け取って、大成様は渋るように唸った。乗り気でないらしい。
「なんか、ピンと来ないんだよなぁ…!」
 昼子様ファンの私としては、ちょっと面白くない。
 しかし、そういう直感も侮れないものだ。
「悩んだら、“顔”で選ぶのも手ですよ。男と女の関係なんて、そんなもんです」
「イツ花はイツ花で、アレだよなぁ」
 もりもりご飯をほおばりながら、大成様は失礼なことを言う。
 一方、静花様はお椀半分の量で食事を終えた。──この頃、食が細くなった気がする。
 そうして、お選びになった大成様のお相手は茅宮卑弥子様。奉納点の高い順に目録を見て、“ピンと来た”らしい。
 のちに、大成様は語る。
「……あとから気付いたけど、卑弥子さん、母ちゃんに顔がそっくりなんだよな。これってさぁ、」
 それ以上は言葉は続かず、落ち込む大成様の肩を、私はぽんっと軽く叩いてやった。



1021年 5月

「でかしたわ、大成!!」
 ご来訪した大成様のお子様方──男女の双子であった──を見て、静花様は手放しで褒め讃えた。 
「双子だなんて! これで、戦力の幅が広がる!!」
「……子育ての苦労も増えるけどな」
 両手に幼子を抱えた大成様はげんなりと溜め息を吐いた。
 双子は赤髪、青目の褐色の肌。赤髪は初代以来であり、青目は父君の色だった。
「兄を、紅成(こうせい)。妹を紅花(べにか)と名付けよう。初代さんの色を受け継いだ二人だ。どうか末永く、仲良く過ごせますように」
 双子の養育は大変であったが、静花様の支援もあって順調に進んだ。
「紅成の方は、ちょっと伸びが悪いねぇ」
と、静花様は孫にまで容赦ない言葉を浴びせる。
 だが、大成様はあえてそれを止めることはしなかった。
「母ちゃんの慧眼は確かだからな。ただ、それがどう今に活きるかは分からない。紅成は大器晩成型かも知らん。ま、気長に見守るよ」
 紅成様の訓練は静花様が、紅花様の訓練は大成様が受け持ち、5月は過ぎて行った。
「こんなゆったりとした気持ちは久しぶり」
 夕暮れ時、縁側に座り、孫娘を膝に抱いた静花様はしみじみと言う。癖毛で毛量の多い紅花様の髪をふわふわと手で撫でながら、
「孫の顔を見ることができただけじゃなくて、二人も恵まれて。いいのかねぇ、こんな晩年で」
 庭では、薙刀と槍で息子と孫が手合わせをしている。紅成様は一本松家初の槍使いであり、その訓練も少し難航していた。それでも、必死で追い付こうと槍を振り回す紅成様に、静花様は目を細める。
 ──その翌朝、静花様は眠るように息を引き取った。






一本松家
静花(しずか)
 得意:立ち泳ぎ
 9か月で4代目当主。薙刀士。
 静花様はイツ花視点でなくても静花様という感じ。
 寿命を見ると“天才”ではないのですが、相対的に見て、そんな感じの子だったので、性格もこんな感じに。一人で奥義を2つも創作した人。
 一人っ子プレイの性質上、序盤は親の素質点を子が超えるものとなるはずが、息子の大成の素質が悪くて…。親より低かったため、スパルタしました。
 爆円様との交神の儀の話はどこかで書いてみたいなぁと思いつつも、二人の秘め事にしておいてもいい気がする。
 2人の孫に恵まれ、その顔を見ることもでき、なんやかんやと幸せな一生だったのではなかろうか。
 イツ花に対しては、イツ花はイツ花という認識でいた。
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