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一本松家 6代目 紅成

2019.09.06 19:03|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花の視点で綴る形式。
 6代目 紅成(こうせい)の記録。1022年5月~1023年2月。




1022年 5月

 あのね、紅成、と紅花様は、空を仰ぎながら言った。
 荼毘に付され、煙となった大成様は、青空に一筋の白を描いていた。
 五月の空は澄み切っていて、哀しい葬儀にも爽やかな風を運んだ。
「父さんに、次期当主の話を持ち掛けたの。春花が来る一月前に、」
 紅成様は何も言わず、寝入ってしまった春花様を背負い直した。本来ならお昼寝の時間である彼女は、一族の墓場である山に登ってくるまでに力尽きたのだ。むずがる彼女を受け負ったのが、紅成様だった。
「紅成を次の当主にしてほしい、と。私には向いてないから、って」
「…親父は、なんて?」
「…“最初から、そのつもりだった”って。その理由も滔々と述べて、」
 だからね、と紅花様は紅成様を見据える。
「あんたは、先代と、私の二人に選ばれた当主だよ。胸張って、生き抜いてよ?」
 わかってるよ、と紅成様は静かに微笑んだ。



1022年11月

 紅成様が6代目“初”を継いでから、一本松家の戦績は目覚しいものとなった。
 5月には相翼院で白浪河太郎様、五月川山女様を解放。
 6月から7月の白骨城では恨み足、右カイナ・左カイナを打倒。
 8月には第8回朱点童子公式討伐隊選考会で優勝。
 9月には忘我流水道にて敦賀ノ真名姫を打倒。
 10月の紅蓮の祠では中腹に住まう親玉、鳴神小太郎様を解放した。
 元より技水の素質が高く、“中津ノ薙刀”“秋津ノ薙刀”との相性のよかった紅花様と春花様に加え、9月の討伐の際に手に入れた“氷刃の鉾”が同じく技水の高い紅成様の手に馴染み、今の一本松家は安定した強さを保っていた。
 そして、今月、春花様は成人を迎える。
 母君に似たのか、春花様はおとなしい方だった。戦場で鬼をばっさばっさと斬り倒す姿は勇ましいが、普段、家で過ごす時は縁側でネコの蚤取りをしているのが常だった。
「私が触ろうとすると逃げるのにぃ」
「自分よりも大きい生き物が追ってきたら、怖いでしょう? ネコは追うのではなくて、待つ生き物よ」
 春花様はネコの毛並を梳きながら、優しく笑った。
「イツ花、ちょっといいかい?」
 紅花様に呼ばれ、私はそちらへ足を向けた。
「例の、あの話について……兄さんに、直談判しようと思う……」
「あぁ、アレですか……」
「イツ花も一緒に来てくれないかい? 私、一人じゃ、言い出しづらくて…、」
「紅花! よいところに!」
 その時、紅成様が通りがかった。
「今月の予定の話なんだが──、」
「紅成、私も話が──、」
と、二人は顔を見合わせる。
 とりあえず、当主の部屋に行きますか、と進む二人の後に、私も続く。
「春花は、」
「…ちょっと外してもらいたい」
 紅花様の様子に、違和を感じたのか、紅成様は眉をひそめた。
「で、話って?」
 当主の部屋に来て、紅成様は話を促した。6代目を彼が引き継いでから、約半年。すっかりその役が板についている。
 兄さんからどうぞ、と紅花様は先を譲った。
「今月の予定の話だ。というか、春花の交神に関してだが、」
 ぴく、と紅花様の頬が少しだけ動いた。
 紅成様は気付かずに続ける。
「……ギリギリまで見送りたいと考えている」
 ほぅ、と紅花様は息を吐く。
「──私もそれがいいと考えてた」
「えっ、ほんとか!?」
 こくん、と紅花様は頷く。
 そうか、と紅成様は安心したように微笑む。
「代々、子一人、親一人が基本の一本松家にとって、俺ら双子と、その娘で3人という戦力は──おそらく、稀だ。今は、それぞれに馴染む武器もある。俺たちが戦えるギリギリまで、親玉討伐に時間を割きたい。春花には悪いけど……、」
と、紅成様は言葉を切る。
「あの子と、交神については何か話しているか?」
「いや、まったく」
 紅花様は即答した。
「春花も、交神の儀が延びることには文句はないと思うよ」
「? そうか、」
 なら、と紅成様は息を吐いて、姿勢を崩す。
「孫の顔は見れねぇかも。それだけは悪いな、紅花」
「そんなことは、別に、」
と、紅花様は私に目をやる。私は小さく頷いて、彼女を促した。
「で、私からの話なんだけど、」
「おぉ、何?」
「市井に通っている女があると聞いた。本当なの?」
 え、と紅成様は言葉に詰まった。崩した姿勢を元に戻しながら、「通うって、」と小さく呟く。
「交神の儀の機会を譲ってもらった私が、言うことではないかもしれない。好いた女がいるなら、それはそれで構わない。けど、もし、軽い気持ちで付き合っているのであれば、」
 紅成様が何も答えないので、紅花様は構わずに続ける。
「万が一、その人に子ができたら? 私たちの呪いが、短命の呪いが、その子にも影響してたら? 普通のヒトは子を十月十日、女の腹で育てる。私たちの成長はヒトよりもずっと早い。母体にどんな影響が出るか──!」
「…子種が欲しいと言われた」
「…はぁ?」
 紅成様は長い息を吐く。
「神の血を引いているのなら、その子は丈夫に育つだろう、って。どうしても、と乞われて、それで、」
「だからって、そんな、無責任に…!」
「……でも、子はできなかった」
 両手で顔を覆って、紅成様は言う。
「……できなかったんだよ、紅花」
 紅花様は言葉を失う。
 勘違いするなよ、と紅成様は顔を上げる。
「俺が子を望んだわけじゃない。ただ、女の方に申し訳なくてさ…。──三度、流した、と。最後の子は死産で……離縁されて、都に帰って来たけど、女一人が生きて行くには、まだまだ荒れている。せめて子があれば、と……。力になってやれなかった」
「…兄さんのせいじゃない」
「そう…。俺たち一族の、“呪い”のせいだ」
 しばらく、二人の間に言葉はなかった。
 結果的に、“種絶の呪い”は確かなものとして証明された、ということだろう。一族にとっては悲報である。
「…その人、今はどうしてるの?」
 紅花様がようやく口を開いた。
「子ができなくても、……夫婦として、添い遂げることはできるでしょう? もし、紅成が望むなら、うちへ来たって、」
「……子を三度も失くした上に、俺の骨まで拾わせられねぇよ」
 そう、と紅花様は応える。
「そう、よね…。そうなるよね…」
 もう逢わないよ、と最後に紅成様は寂しげに笑った。



1023年 1月

 紅成様の計画通りに、親玉討伐は順調に進んだ。
 11月には相翼院の片羽ノお業、12月には紅蓮の祠の赤猫お夏を倒し、今月は鳥居千万宮で九尾吊りお紺様を解放した。
 今月初め、紅成様の健康度は下がったが、漢方薬を使って討伐を続ける予定だという。
「最近、伯父様はよくうちにいらっしゃるわね」
 忙しい最中であったが、春花様は嬉しそうであった。
「もうおじいちゃんだからなぁ。おうちが一番!」
「もぉ! そんな情けないことを言わないでくださいな」
「いや、もう身体の節々が痛くて痛くて。年を取るのは嫌だねぇ…」
「仕方ないですね…。この春花が肩を揉んで差し上げましょう!」
「いやぁ、ありがたい~」
 そんな伯父と姪の様子を、紅花様は微笑ましく眺めていた。
 春花様に肩を揉まれながら、しみじみと紅成様は言う。
「春花はいい子だねぇ。おまえの子の顔を拝めないことだけが、俺の心残りだよ…」
「…私は、伯父様と、……お母様と、出来るだけ一緒に居られる方が、嬉しいです」
「聞いた? 紅花? この子のよいこっぷりは誰の血だ?」
「月光天様だろうねぇ」
「ほんと、神様に感謝だなぁ!」
 その翌月、親王鎮魂墓に出陣。
 土偶器を倒し、迷宮内での近道を開いた。
「なんか体が軽いなぁ…。今なら朱点に、勝てそうだぜ…」
 討伐から戻って3日、紅成様は静かに息を引き取った。







06i
紅成(こうせい)
 得意:散髪
 11か月で6代目当主に就任。一本松家初の槍使い。
 表出した素質こそ、妹の紅花に劣るものの、進言の内容を見ていると賢い子だったなぁ、という印象。
 ものの考え方は先々代の静花に似ていることが多く、父の大成が次期当主に推した理由でもある。
 双子の妹、紅花との距離感は付かず離れず。姪の春花を溺愛した。
 死後、一本松家初の氏神として昇天。
 氏神名“破戒神一本松”。
 イツ花とはあまり関わり合いがなく、イツ花はお手伝いさんという認識でいた。

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