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一本松家 8代目 光成

2019.09.08 00:16|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花の視点で綴る形式。
 8代目 光成の記録。1023年12月~1025年1月。




1023年12月

 春花様は氏神の条件に適っていたので、光成様が二柱目として奉った。
「今頃、父様に会えてるかなぁ?」
 煙になって天へ登る春花様を見上げながら、光成様は言った。
「そのために氏神になさったのですか?」
「ん、ダメ?」
「ダメではない、ですが…」
「氏神からの交神申請を、神側は断れない──母様は選ばないように、子孫に遺言でも残すかな?」
 それでは氏神制度の意味はないのではないか、と思ったが、その程度のことは許されてもいいのかもしれない。
 青い空に吸い込まれるような白い煙を見送って、少しそんなことを思った。

「うちって、こんなに広かったっけ?」
 葬儀から帰るなり、光成様は言った。
 寂しくなりましたね、と私が返すも、彼は何も答えなかった。
 今月、ようやく6ヶ月になる光成様は、まだ成人も迎えていない。



1024年 2月

 光成様は一人での討伐を続け、奥義の鏡返し、大旋風を創作した。
「これで薙刀士の奥義は揃った。俺の子には全部継がせられそうだよ」
「よかったですねぇ」
 とはいえ、一人で一本松家を支える身である。
 無理はできないようで、迷宮攻略はなかなか進まなかった。

 光成様はよく市街に出掛けられるようにもなった。あの広い屋敷に一人でいるのは寂しいのかもしれない。
 年齢相応の子どもたちと遊ぶこともあれば、その縁筋のお兄さんやお姉さんに混じっていることもあった。
 私が買い物で出掛けると、店の方や道行くお姉様方からよく光成様の話を耳にした。
「イツ花ちゃんとこの若旦那、上戸だねぇ! うちの飲兵衛と呑んでも、ケロっとしてるよ」
「えっ、当主様、お酒を召し上がっているのですか!?」
「かなり好きなようだよ、ねぇ?」
「ありゃあ、“うわばみ”だよ。家で呑ますんじゃないよ。すぐに食費が酒代に消えるから!」
 人生の先輩たる方々にそう言われ、むむ、と思案する。
 基本的に当主様のご意向には口を出さない方針であるが、母君であった先代に任せられた手前、健康面では致し方ないのかもしれない。
「当主様、成人を迎えるまでは、お酒は控えてくださいね。一本松家を支えるのは、今、当主様お一人なのですから…!」
 意を決して諌める発言をすると、彼はポカンという表情を浮かべた。
「や、俺、今月で成人よ?」
「へ?」
 そう言って、振り返った光成様が見ていたのは神様一覧の書かれた目録の巻物だった。月日が経つのは早いものである。
「そ、それは失礼しました…」
と姿勢を正して、謝罪する。
 光成様は気にしていないようで、目録の最後の方を目にしている。
「お相手の方はお決まりなのですか?」
「んー、まぁ、強い子が来て欲しいから、この辺だけど、」
と、光成様は私に目をやる。
「?」
「…俺は母ちゃんとは違うからなぁ。家族から交神相手は選べないや」
「ど、どういう意味でしょう?」
「つーわけで、夕子さんかなぁ?」
「ち、違いますからね? 私のこの髪型や口調は、昼子様に憧れて、真似しているだけで、」
「娘がいいなぁ。どうせなら、美人の!」
「当主様、聞いてます!?」
 光成様は答えを明確にしないまま、太照天夕子様をお相手に選んだ。



1024年 4月

「……男かぁ!」
 来訪したお子様を見て、開口一番、光成様は声を上げた。
「夕子さん似の、美人な娘が欲しかった…!!」
「ご子息の前で、なんてことを……」
 父君から言われていることの意味も理解できてないようで、やってきたばかりのお子様は目をパチクリさせるだけだった。
 光成様のご子息は口元が母君ソックリで、“栄成(えいせい)”と名付けられた。目も髪も肌も、その色は父君にそっくりな彼には、生まれつき左眼の周りに痣があり、一族の呪いの強さを再確認させられた。



1024年 8月

 4月から5月を訓練、6月から7月を討伐で過ごし、栄成様のご成長に尽力した。
「力試しに今月は選考試合に出てみるかぁ」
 光成様はいつものようにのんびりした調子で出掛け、さっくり優勝した。
「みっちゃーん!!」
「おみつー! かっこいいぞぉー!!」
 会場で都の人々から声援を受け、光成様はへらへらと手を振って対応していた。
「“みっちゃん”? “おみつ”?」
 聞き慣れない呼び名に、私は首を傾げる。
「おぉ。街では、俺、“みつなり”って名乗ってんの。“こうせい”だと、父ちゃんと被るだろ?」
「母君からもらったお名前ですよ!?」
「だってさぁ、不便じゃん? ただでさえ、うちは目立つ容姿で、入れ替わりが激しいのに」
 言われてみればそうなのかもしれないが、複雑に思う。
「…父ちゃんと、縁のあった女も、まだ都に住んでるしね」
 小さく呟かれた光成様の言葉に、ギクリとする。
 彼を見やれば、観衆の中から知人を見つけたのか、駆け寄って息子の栄成様を紹介しているところだった。その顔は、心底楽しそうで、嬉しそうで──何だか、彼が遠くに感じられた。

「父ちゃんってモテるんだねぇ!」
 屋敷に帰って栄成様はそんな感想を漏らした。試合会場で様々な大人にチヤホヤされ、ホクホク顔である。
 何やらその台詞に既知感を覚えつつ、「当主様はお顔が広いですから」と私は表現を変えてやんわりと伝える。
「そう、一本松家の男はモテるぞぉ~!」
 そうした私の気遣いを意に介さず、光成様は息子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「神さんの血を引いてるから有り難がられるし、腕っ節もある。何より子ができないから、娘さんの初恋相手にはもってこいというわけだ」
「と、当主様!? それを子どもの栄成様に言うのはどうかと…!?」
「何、言ってる。イツ花。子どもの成長なんてあっという間だ」
 ひょいっと栄成様を抱え上げ、光成様は笑う。
 やめろよぉ、と抵抗するように、栄成様は身じろぎした。
「俺がおまえくらいの年頃にはもう“当主”を継いでたしな。明日、俺が生きているかも分からないんだ──栄成、おまえ、でっかくなったなぁ!」
 動き回る栄成様に降参するように、光成様は彼を下に降ろした。
 もうガキじゃない、とむくれる栄成様の頬はまだ幼い輪郭を残していて、かつての光成様を少し思い出した。



1024年12月

 栄成様が討伐に参加できるようになってから、迷宮攻略も本格的になり、10月は紅蓮の祠で扇の指南書を得て、忘我流水道の中親玉・敦賀ノ真名姫を打倒した。
 今月はいよいよ栄成様の成人──交神の儀を行う。
 ……だというのに、光成様の健康度が下がった。1歳6か月のことである。
「情けねぇな、孫もできるっていうのに…」
 漢方屋の新作、神秘陽春湯を白湯と一緒に飲みながら、光成様は呻く。
 栄成様の交神相手に水の神・桃果仙様をお選びになった。
「おっぱいか?」
「……」
「おっぱいだな?」
「……」
 光成様の無粋な突っ込みを、栄成様はすべて無視した。

「イツ花、親父のこと、よろしくな。あれでかなり参ってるみたいだから、」
 交神の儀の場所へ向かう道中、栄成様は私に言った。
「酒の量も増えたし…、」
「いえ、それは前から変わらないです」
 即答すると、彼はふっと柔らかく笑った。
「初陣の時、親父に言われたよ。“イツ花が悲しむから、絶対に生きて帰るんだぞ”って。親父が一人で討伐から帰ってきたとき、イツ花が好物を作って待っててくれて、すごく嬉しかった、って。おかげで無茶できない戦い方しかできなかったけど、……あの人、そういうとこ、あるよなぁ」
 ほんと頼んだよ、と念を押して。
 ──頼まれたところで、私には何もできない。



1025年 1月

 年が明けても、光成様の健康度は一向に回復しなかった。
「何としてでも、来月まで! 生きてもらわないとっ!!」
 栄成様は台所へ忍び込んで、光成様の食事に漢方薬をしこたま混ぜた。私は致し方なく、それを適量に調整する。
 栄成様のお子様は男女の双子であった。来月、ご来訪予定である。
「今月は、一人で討伐に行っておいで」
 食事の際、光成様は言った。がり、と薬を噛む音がした。ぺっ、とそれを吐き出す。
「えっ、それって」
「決して無理して奥まで行かないように。軽く汗を流す程度でいいから、」
 わかった、と栄成様は答えるものの、その表情は不安そうだった。いつも3杯は食べるごはんのおかわりも、その日の食事は2杯で終わった。
「親父はそんなに悪いのかな?」
「今月は大事を取っておやすみされるのです。きっと大丈夫ですよ」
 栄成様のご出陣の準備を手伝いながら、私は答える。
 そう答えながらも、ここのところ、光成様の顔色が悪いことは明らかだった。

 栄成様が発って三日後、光成様はほとんど寝所から出られなくなっていた。
 外に積もった雪をお椀に集めて、光成様のところへ持っていく。砂糖を溶かしたものを混ぜて口へ運ぶと、「あぁ、うまい」としみじみ呟かれた。
「ほんとは冷たいものはお体に良くないのですけど、」
「何も食べないよりはマシだろ?」
 この頃はもう固形物も受け付けなくなっていて、水のようなお粥と雨雪で凌いでいる。──栄成様がお戻りになるまで、間に合わないかもしれない。
「考えてみれば、この家じゃあ、平凡な人生は、子孫のために勝ち取るモノなんだよなぁ」
 はぁ、と息を吐いて、光成様は目を閉じる。
「イツ花、もう一口」
「…ご自分で食べてください」
「けちぃ」
 光成様が口を開けるのを無視して、布団の中に手を入れて温度を確認する。湯たんぽが冷めてきたので、新たな湯を入れてこようと立ち上がる。
「イツ花、」
 呼び止められて、振り返る。
「何ですか?」
「最後の俺のお願い、聞いてくれる?」
 最後、の言葉にぎくりとした。
「俺のこと、名前で呼んで?」
 ぎくりとしたまま、言われたその願いにすぐに反応できなかった。
 五か月で当主になった彼を、もう一年近く「当主様」と呼び続けてきた。
 先代の春花様が「こうせい」と名付けたそれを、彼は自ら名乗るときには「みつなり」に変えた。
 どちらで呼べばいいのか。
 そもそもその願いの意図は何なのか。
 ──私がすぐに答えられなかったから、光成様は自分で引いた。
「ごめん。わがまま、言った」
 忘れて、と彼は笑う。
 曖昧な笑みを返して、私は台所へ引き返した。
 早く戻らなくては、と思いながらも、しばらくその場から動けなかった。
 温かった湯たんぽはすっかり冷えて、私の体の熱を奪っていった。





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光成(こうせい)→(みつなり)
 愛称:うわばみ
 5か月で8代目当主に就任。薙刀士。
 ここまでの一本松家で、一番社交的な人物。酒も女も楽しめる男。
 外へ出るようになったのは寂しかったせいもあるが、イツ花と二人で広い屋敷にいるのが合わなかったから。
 二人でいた時間が他の一族で長かった分、イツ花に対してはただのお手伝いさん以上の想いがあった、……が、交神相手には夕子さんを選びました。何を話したのかな…。殺伐としてそう。
 父と息子の2人親子は一本松家初でした。これはこれでよい。
 三柱目の氏神“一本松大権現”として昇天。



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