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一本松家 13代目 菊花

2019.09.26 22:05|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花視点で綴る形式。
 13代目 菊花(きっか)の記録。1028年8月~1029年4月。




1028年 8月

 結花様のご葬儀は身内だけで静かに執り行われた。墓前には徳利とお猪口が置かれ、中には故人が生前好んで飲んでいたお酒がたっぷりと注がれている。
 2ヶ月間みっちりと訓練を施され、祖母によく懐いていた澄花様は目を真っ赤にして泣くのを堪えていた。その娘の手で引きながら、菊花様はゆっくりと息を吐く。
「お母様が氏神条件から外れるなんて…」
 このところ連続して氏神入りが続いていただけに、菊花様はショックを受けているようだった。先々代から譲り受けた槍使いの奥義は攻守共に優れ、属性武器との相性もよかった結花様は、戦闘でも大活躍であった──それなのに。
「…今、うちから氏神は何人出てる?」
 不意に尋ねられ、えっと、と私はご先祖の顔を思い浮かべる。ぱっと広げた手とピースサインを出して、私は答えた。
「7人、ですね」
 しちにん、と口の中で菊花様は繰り返す。
 せめて10人、と続けて、小さく呟くのが、私の耳に確かに届いた。



 訓練を終えた澄花様を連れ、菊花様は朱点童子公式討伐隊選考会へと出かけられた。初陣の澄花様とでは思うように力が出せず、結果は3位での入賞で終わった。
「初めてにしては健闘した方よね」
 菊花様は満足げであったが、澄花様は落ち込んでいた。手につけた“昇龍の爪”を外しながら、しょぼんとしている。
「お母様がせっかく“獣踊り”で攻撃力を上げてくれたのに、…ごめんなさい」
「いいのよ、澄花。阿部さんとこは私とお祖母様でも1本取るのが難しい相手なのだし」
「…お祖母様とでも!?」
「そうよ。なかなかの強敵でしょ?」
 澄花様はそれを聞いて、少し取り直したらしい。そうなんだ、と一人呟いて、顔を上げて笑う。
「でも、そんなに強いのだったら、あの方々にも神の血が入っているのかもしれませんね!」
 それは幼い澄花様の戯言に過ぎなかった──が、菊花様は、はたと動きを止めた。まさか、と小さく呟いて私を見る。
「あ、有り得ませんよ? 天界が協力しているのは一本松家だけですから!」
「…でも、その天界も一枚岩ではない」
 慌てて弁明する私の言葉を、菊花様は無碍なく斬り捨てた。
「…天界は、まだ何か隠しているのかしら?」
 遠い目をして、彼女は呟く。
 選考試合の会場に響く歓声が、やけに遠くに感じられた。



1029年 2月

 地獄の探索を挟みながらも、10月には赤猫お夏様を解放し、戦闘の折には菊花様が花吹雪を、澄花様が流星爆、飛天脚をそれぞれ創作なさった。
 しかし、地獄の探索はなかなか思うように進まず、氷雪針地獄で二度目の大百足を倒して、年が明けた。
 今月、澄花様はご成人を迎え、交神の儀を予定している。
 交神の儀に関しては母君からお話があったようで、このところずっと澄花様は浮かない表情をなさっていた。神様一覧の巻物を広げては溜息を吐く姿がよく見られるようになった。
 澄花様、と声をかけて私は彼女の隣に座った。
「交神相手はもうお決まりですか?」
「んー、まぁね…、」
と澄花様は歯切れ悪く答える。
 お相手が決まっているのなら、交神の儀そのものに不安があるのだろうか。私はわざとらしく明るい声で続ける。
「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。大抵の神々は紳士ですし、一本松家には協力的です!」
「…うん、わかってる」
「ちなみに、どなたをお考えなのですか?」
 この方、と澄花様は巻物の一番最後──氷ノ皇子様を指した。先代と菊花様とで解放した神の一人であった。
「氷ノ御方なら、なおさらです! 天界一の美丈夫として有名ですよ。体は冷やっこいかも知れませんが、心根はお優しい方です」
「そう、なの…?」
 澄花様は顔を上げてちょっとだけ微笑んだ。
「お優しい、方、なのね……」
 人差し指で相手の神の名をなぞりながら、確認するように呟いて。



1029年 3月

 菊花様の健康度は先月から下がっていたが、漢方薬“虎骨竜血”の力を借り、春の朱点童子公式討伐隊選考会へと出掛けられた。
「もはや恒例行事となってきましたね。何となく、あの方々とお会いするのが楽しみになってきました」
 扇を構広げ、菊花様は笑う。
 あの方々、とは、阿部晴明社中の面々である。あちらにもそのような認識があるようで、会場では何度か視線があった。
 ──結果は、準優勝。
 決勝で、阿部一行に負けてしまった。
「…ごめんなさい。私が、」
「あなたのせいではないわ、澄花」
 悲しそうに言う澄花様に、菊花様は穏やかに答える。
 後衛の踊り屋と、前衛の拳法家。
 その前衛として、澄花様は自分の突破力の無さに自信を無くしていた。
「彼らの打倒が私たちの本願ではないの。私たちの本願は、一族の安寧よ。そのための力であり、技術なのです。これからも精進しましょうね」
 母君にそう慰められるも、澄花様の心は晴れないようだった。



 試合会場から帰り着いて早々に澄花様は自室へ引きこもってしまった。
「澄花の心の弱さは心配になるわね」
 居間では頬杖をついた菊花様が、溜息を吐いた。
 目の前には“一本松一族 英雄伝”が置かれ、これは代々当主がその月の成果や討伐について記してきたものである。とはいえ、当主様の性格によって内容は玉石混淆であった。菊花様の記録は、どの当主様よりも丁寧に正確に簡潔にまとめられており、分かりやすいと私は思っていた。
「来月にはあの子もヒトの親になるというのに…子どもが来たら、嫌でも変わるのかしら?」
 私がお茶を入れて差し上げると、ありがとう、と菊花様は言って微笑んだ。
 一口飲んで、ほっ、と息を吐く。
「…あの子の代で、終わってくれるといいのだけど」
 そう呟くように言った菊花様は、もう覚悟しているのだと私には分かった。



1029年 4月

 桜も満開の盛りに一本松家にご来訪した澄花様と氷ノ皇子様とのお子様は、膝がしらとくるぶしの形がかわいい女の子だった。
「まぁ、赤毛なのね! 縁起がいい!」
 孫娘を抱き上げて、菊花様は嬉しそうに頬ずりした。
 澄花様は不思議そうに首をかしげる。
「そうなのですか?」
「えぇ! 歴代の記録を見ると、赤毛の者は鬼狩りの節目であることが多いの。初代はもちろんだけど、6代目はたくさんの親玉を倒したし、10代目から11代目は髪狩りを果たされた。だから、きっとこの子の赤毛も良い兆候よ!」
 にこにこと嬉しそうな菊花様につられてか、抱き上げられた澄花様のお子様も嬉しそうに笑っている。
 では、と澄花様は娘を母君から引き取って、抱き寄せる。
「あなたは“鞠花(まりか)”と名付けましょう。歴代の英雄たちに負けぬよう…、強くなりますように…」
 鞠花様の一月目の訓練は、母君の澄花様が担当することになった。
 鞠花様の職業は一本松家初の大筒士。母娘で職業が違うが、澄花様は熱心に子どもに訓練を施した。
 体調が思わしくない菊花様は、その様子を縁側から眺め、満足そうに微笑む。
「…あの子たちが生きているのだから、私の勝ちね」
 ──桜がほとんど散り終わる頃、菊花様は息を引き取った。
 享年1年8ヶ月。
 氏神条件に敵い、一本松家8柱目の氏神“仙女一本松”として昇天なされた。



→ 14代目 澄花


15.jpg
菊花(きっか)
 信条:先手必勝
 当家初の土目で、踊り屋。「花吹雪」「水の舞」「獣踊り」を一代で創作。
 踊り屋らしく、技の覚えもよく、聡明な子であった。が、大局を見据えるばかりで、目の前が見えていない、という弱点も。それが娘・澄花との距離感に繋がってくるのだが、本人は死ぬまでそれに気付かなかった模様。
 イツ花に対しては、天界への不信感から距離を置いていたが、日常生活にそれを不便に感じさせない程度には賢く立ち回れる子だった。「お手伝いさん」くらいの距離感。

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