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一本松家 14代目 澄花

2019.09.29 21:48|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花視点で綴る形式。
 14目 澄花(すみか)の記録。1029年5月~1030年2月。




1029年 5月

 先代の葬儀から落ち込んでいた澄花様のために、鞠花様が近所の山でタケノコを採ってきた。タケノコは母君の好物である。
「こんな時期によく見つけてきたねぇ」
「山菜名人のおじいさんに秘密の場所を聞きましたっ!」
 大きなタケノコを抱え、鞠花様は笑う。お召し物はところどころ土に汚れ、頭には草がくっついている。きっと、一生懸命にお探しになったのだろう。
 鞠花様の頬についた泥を、澄花様はてぬぐいで優しく拭った。
「ありがとう、鞠花。…ふがいない母でごめんなさいね」
 目を伏せて謝る澄花様に、鞠花様は困った顔をする。
「私が食べてみたかったのです。姫皮の、梅肉和え…? でしたっけ? 以前、お母様がおいしいと話してくれたから…」
 タケノコは何度か食卓で出したこともあったが、鞠花様が生まれてから梅肉和えは作っていなかった。ついつい保存が効く煮物にばかり使ってしまう。
「では、早速、今晩の夕飯にお出ししますね」
 私は鞠花様からタケノコを引き受ける。
 楽しみですねっ、と鞠花様は母君に微笑んだ。

「鞠花は本当によいこね…」
 娘を寝かしつけてから、居間に戻ってきた澄花様はしみじみと呟いた。
「氷ノ皇子様もお優しい方だったから、きっとあの方に似たのでしょう」
 ふっ、と澄花様は微笑む。私も頑張らないと、と何かを決意するかのような顔をして、天を仰いだ。



1029年 8月

 6月頃に都で流行った病は治まり、澄花様たちは白骨城へ出かけた。7月と続けて討伐を行い、大江ノ捨丸を打倒。解放までには至らず、澄花様は残念そうだった。
「もう何度も倒しているのに、なぜかしら?」
 当主の記録を見返しながら、首を傾げる。
 その横から記録を覗き込みながら、同じように鞠花様も首を傾げる。
「解放条件に合わないのでしょうか?」
「そうかもしれないねぇ」
 鞠花様の言を受け、澄花様は記録を閉じる。
「解放できていない神々はあと三柱。このうち、お二人は地獄で囚われている方々だから、捨丸様は優先的に解放したいところね」
「…神々は、すべて解放しないといけないのですか?」
「そういうわけではないけれど、」
と澄花様は困ったように微笑む。
 娘の頬に優しく触れ、いつか話すから、と話題を打ち切った。

 今月は親子で朱点童子公式討伐隊選考会に参加、見事に優勝を飾った。
「阿部晴明社中に勝った! すごいわ、鞠花!!」
 澄花様は興奮気味にそう言って、娘のほっぺたをむにむにっとした。
 鞠花様も嬉しそうに母君に抱き着いて、その喜びを分かち合った。
「お母様とは果たせなかったことが、娘のあなたとなら、できた…。本当に、ありがとうね、鞠花」
 ぎゅっと娘を抱き寄せる。
 その目尻には、ほんの少しだけ、涙がにじんでいた。



1029年11月

 9月からは地獄の探索が続いた。氷結針地獄の大百足を打倒すると、百足お銀様が解放された。勢いづいたのか、翌月の10月は血の池地獄にて大八手を倒し、戦いの最中、鞠花様は奥義“連発式”を創作した。
 11月には討伐を続行し、修羅の塔の奥地まで進んだらしい。
「さすが最後の砦ね。敵が強くて、」
 帰って来た鞠花様は武具を解きながら、大きな溜め息を吐く。
 特に亡者砂漠から出現する茨城大将が厄介だという。
「敵を吸収されると、途端に強くなるの。攻撃も防御も桁違いに上がってしまう…」
「…仲間を吸って、強くなるなんて。嫌な敵です」
 鞠花様も暗い表情である。
「あなたは重い防具をつけられないから、特に気をつけなさい」
 わかった?と念を押すように、澄花様は言う。
 はい、と鞠花様は真剣な表情で答えた。



1029年12月

 月の初め、京の都には初雪が降った。
 例年より早い冬の知らせである。炭の用意も十分ではなかったが、そこは一本松家の人望、ご近所から分けてもらえることになった。
「炭を分けてもらえてよかったね」
 火鉢でそばがきを焼きながら、鞠花様は言う。
 最近の彼女は蕎麦打ちを趣味としていた。訓練や討伐の合間によく作っては、母君の澄花様や私にご馳走してくれた。その腕前はお店を開けるほど──今では、そばがきをこしらえるまでに至った。
「お母様のお加減は大丈夫かな…」
 鞠花様は心細げに言う。
 今月に入り、初めて澄花様の健康度が下がった。漢方薬を服用して今は寝室で横になっているが、この寒さでは体調も心配させられる。
 こんがりと焼けたそばがきを皿に盛って、鞠花様は私の方へ差し出す。
「おひとつ、どうぞ」
 ありがとうございます、と私は焼き立てを手に取る。
 焼いたものを食べるのは初めてだったが、香ばしい食感と風味が大変美味であった。
「ちょっと味が薄いかも?」
  作った本人である鞠花様は味への妥協をしなかった。
 十分においしいのだが、言われてみると一味足りない気がする。
「お醤油、持ってきましょうか?」
「うん、ありがとう、イツ花」
 私が立ち上がった時、部屋の襖が開いた。
「あら、いい匂い」
「お母様! 起きて平気なのですか?」
「よく眠ったから…、私にもひとつもらえる?」
 澄花様はそう言って、鞠花様の傍に座る。
 お二人は同じ柄の半纏を着込んでいた。この急な寒さでろくな防寒具も用意していなかったので、私が慌ててしつらえたものである。波打つような長い緑髪の澄花様と、赤髪を二つ結びにした鞠花様とではまったく似ていないのだが、こうして並んでみると確かに親子なのだと思えて微笑ましかった。
「とっても、おいしい」
 私が持ってきた醤油をつけてそばがきを一口食べると、澄花様はにっこりと娘に微笑みかけた。よかったです、と鞠花様は照れくさそうに笑う。
「…今月、とうとう成人ね。交神のお相手は決めた?」
 火鉢を三人で囲みながら、不意に澄花様は言った。
「…ええっと、まだ、」
 鞠花様はもじもじと身じろいで、赤い顔で俯いた。──とはいえ、何となくお決めになっている方はいるのではないか、と私は察していた。一覧の巻物を見る場所が、いつも決まっていたので。
 澄花様はそんな娘がかわいくて仕方がないというように微笑んでいる。
「…お相手のことだけど、」
 しかし、そう切り出した時には、ひどく暗い目をしていた。
 その先が続かなくて、鞠花様は頭に「?」を浮かべた。
 なぜか、澄花様は私の方を見た。
 私はちょうど食べかけのそばがきを口に入れたばかりのところだったので、目を合わせたまま、口をもぐもぐと動かすしかなかった。
 ふっ、と澄花様は笑う。
「…そうね。イツ花も聞いていて欲しいの。──あなたも、家族だもの」
 私はお茶を飲んで、口の中のものを胃袋に押し込んだ。
 澄花様は姿勢を正す。鞠花様も私も、釣られて背を伸ばした。
「私は交神の儀に際して、先代にこう言われました。“相手は奉納点が高い方から選ぶように”と。その方が素質が高い子が生まれるから…、と。鬼との戦いが生業である一本松家において、それは当然のこと。でも、母の真意は別のところにあった」
 淡々と語る澄花様の目は暗いままで、それは少女時代の彼女を思い出させた。そういえば、交神の儀の前後から、何かを思い詰めていた様子だった。
「私の母は、はっきりと言ったわ。“せめて氏神を10人は天界へ上げたい”と。初め、何を言われているのか理解できなかった。その時、氏神の人数は7人。ということは、あと3人…母と、私と、これから生まれる子を含めて、あと3人──、」
 ぽろっ、と澄花様の目から涙の粒がこぼれた。
 お母様、と鞠花様は心配そうに声を上げる。
 澄花様はぐいっと乱暴に涙をぬぐって、続ける。
「…あと3人、犠牲になれ、と。そう言われたのだと感じました。だから、私はとても悲しかった。イツ花、あなたに相談できなかったのは、」
 澄花様は私を見た。
「母が、あなたを含め、天界に疑念を抱いていたから。朱点を討った後、私たち一族がどうなるのか──母は、それをずっと考えていた。そして、その保険に、うちから出来るだけ氏神を上げることを思いついた。もし、天界が朱点討伐後に一族に何かしようとするのなら、それを天界から阻止しよう、と」
 澄花様は視線を娘へと戻す。
「神々を出来るだけ解放しようとしたのも、そのため。“朱ノ首輪”を掛けられた神々の中には、反天界派もいたようですから。あれは、呪いである同時に、力を増やす道具でもある。…自ら身に付けた者もいたのかもしれない」
 鞠花様のいつぞやの疑問の答えがここにあった。
 しかし、先代の菊花様がそんなことを考えていたとは──。
「もちろん、私たちの親となってくれた神も多くいらっしゃいます。だから、“氏神を10人”というのは、あくまでも母の保険の目安なのでしょう。でもね、私と母とでは……地獄の探索は思うように進まなかったから、それも見越して……」
 ふぅ、と澄花様は一度息を吐く。
「…母の言い分には説得力が十分にある。今までの黄川人や、親玉たちの発言を総合して考えても、可能性は高いでしょう。だから、私は、母の言われるままに、天界で一番強い男神である氷ノ皇子様を選んだ」
 澄花様は、そこで娘に手を伸ばした。
 ふっくらとした彼女の両手をしっかり握って、続ける。
「鞠花…。あなたが生まれて、私はとても嬉しかった。あの方のお心を継いで、本当に優しい子に育ってくれて──、」
 ぽろぽろと、また澄花様の涙が溢れた。
 繋がれた親子の手の甲を伝って、小さな水の粒が座布団の上に落ちる。
「あなたのお父様には、感謝してもし切れない……交神の儀でも、私に優しい言葉をかけてくれた。でも、私にはずっと母の言葉が離れなかった。天界が何かしようとしたとき、この人は私たちの味方になってくれるのだろうか、と──一生に一度の、たった一人の伴侶に対して、そう思い続けるのはとても申し訳なくて…」
 お母様、と声を掛ける鞠花様の目にも涙の膜が張っていた。
「…あなたに、そんな気持ちになってほしくない」
 だから、と涙目で娘を見ながら、澄花様は絞り出すような声で続ける。
「…お相手は、本当に好いた方を選びなさい。あなたの意志と、判断で」

 翌日、鞠花様は交神の儀へと出発された。
 お相手は虫寄せ花乱様。
 優しそうな方だから、というのがお選びになった理由だった。



1030年 2月

 鞠花様のお子様は久しぶりの男子で、母君の赤髪と初代と同じ赤目の持ち主だった。名は“流成(りゅうせい)”。すべてを流せる強い子になりますように、と鞠花様は願いを込めた。
「二代続いて赤毛だなんて、嬉しいわねぇ」
「赤毛だとよいのですか?」
「うちで生まれる赤毛の子は吉兆なんですって。先代が言ってたわ」
 孫を抱っこしながら、よしよし、と澄花様は上手にあやす。
 きゃっきゃっ、と流成様は嬉しそうな声を上げて笑っている。
「…私はお母様やお祖母様のような緑の髪に憧れてましたけど、」
「あ、それで…、」
と思い立って、私はつい声を上げてしまった。お相手の花乱様は波打つ緑髪をしていらした。
 鞠花様は頬を染めて、照れ隠しにか、息子のほっぺを軽くつまむ。
「でも、まぁ、よい兆しであるなら、赤い髪も悪くないかな?」
 流成様の職業は踊り屋となり、その訓練は祖母の澄花様が請け負った。
 訓練の間、鞠花様は討伐へは出かけず、老い先短い母との時間を大事に過ごした。
「うちの一族からすれば、早すぎるってほどじゃないし、私なんか惜しい人でもないものねぇ」
 健康度が下がり続ける澄花様は弱気になったのか、そんなことを口にすることが多くなった。その言葉の裏には、成長していく孫や娘の行く末を見届けたいという気持ちがひしひしと感じられた。
 もう!と鞠花様は母君の後ろ向きな発言を聞くたびに、頬を膨らませた。
「“私なんか”なんて言わないでくださいっ。──流成だって、ばあばがすごいから、強くなったんだもんねぇ?」
 息子に問いかけると、彼は嬉しそうに頷いた。
「ばあばは、オレのばあちゃんだから、すごい!」
 それを聞いた澄花様は声を上げて笑った。
 孫をぎゅーっと抱き締める。
「そうね、そうだわね。私はあなたのおばあちゃんだから、すごいわね!」
「そうです! ついでに私の母でもあるので、とてもすごいのです!」
 息子を抱きしめる母の背中を、鞠花様は後ろからぎゅっと抱き締めた。
「ばあばもかあさんもオレも、みんな、すごいっ」
 母と祖母に抱き締められる形になった流成様は、きゃははっと嬉しそうに笑った。

 ──この月の末、娘と孫に看取られ、澄花様は静かに息を引き取った。
 その死に顔は実に安らかで、ほんのりと笑みを浮かべていらした。




16.jpg
澄花(すみか)
好物:タケノコ
 10ヶ月で14代目当主に就任。拳法家。
 母である先代との心のすれ違いから、自己肯定感が非常に低く、それが心の弱さとなって表れた。
 素質も確かに母の菊花より3000点ほど低く、彼女はそれを責めることはなかったが、失望されていると感じて、自らを追い詰めていった。後年は、娘の鞠花やイツ花、孫の流成には救われ、笑顔が増えた。
 イツ花のことは「家族」だと思っており、年齢と共に「姉」→「娘」のような気持ちで接する。
 9柱目の氏神“守護星一本松”として昇天。

 正式な遺言が「早すぎるってほどじゃないし あたしなんか惜しい人でもないものね」で、正直この遺言を見たとき、ショックでした。ゲーム進行としても、停滞の時期で、かといって、火力もそこまで高くなく。確かにそういう印象を抱いてしまう子であったので。
 実際のゲーム進行では孫の流成に会えてません。が、私の俺屍二次創作は「厳密なプレイ記」ではないので、享年月をずらしました。物語に落とし込むことで報われた気がしたので、書けてよかったです。




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