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一本松家 16代目 流成

2019.10.02 06:35|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花の視点で綴る形式。
 16代目 流成(りゅうせい)の記録。1030年6月〜1031年7月。




1030年 6月

 先代の葬儀はご近所の方にも手伝ってもらい、無事に終えることができた。「惜しい人を亡くしたね」と涙ながらに言われ、鞠花様のご人望の厚さを思い知った。
 氏神条件に敵い、彼女は10柱目の氏神“慈母胎一本松”として昇天なされた。
「…こんなに広かったっけ?」
 屋敷に戻ると、流成様はぽつんと呟いた。
 寂しくなりましたね、と応えながら、私はこの状況に強い既知感を覚えた。
「──オレ、朱点を討つよ」
 流成様は神棚に目を向けて言った。
「そのためなら、どんなことでもする。天界でも何でも、利用できるものは利用する。見てて、母さん。オレが、絶対にやりとげるから、」
 そう言う流成様は今月でようやく3ヶ月。
 一本松家、史上最年少の当主であった。



1030年 9月

 覚悟を決めた流成様の勢いはすごかった。
 6月から7月にかけて向かわれた白骨城では、たった一人でその迷宮の親玉、大江ノ捨丸を倒し、翌月の8月の選考試合では長年の宿敵、阿部晴明社中にあっさりと1本勝ちした。
「踊り屋の奥義は使い勝手がいいなぁ。先人の菊花様には大感謝♪」
 神棚に朝のお供え物をしながら、機嫌良さげに流成様は言った。3ヶ月目で奥義“花吹雪”を復活させたことは、彼の戦略に大きな功績を残した。
 討伐は絶好調でも、私生活ではそうはいかなかった。
 夜中に子どもの声がする──と思って、寝所を覗くと、流成様が苦悶の表情を浮かべて、呻いていた。かあさん、かあさん…と戯言のように繰り返す。
 流成様、と体を揺すって起こすと、寝惚け眼で彼は私の方を見る。
「イツ花…?」
「うなされておりましたので、」
 そうか、と彼は起き上がって息を吐く。お水を差し出すと、黙って受け取り、ごぶごぶと飲み干した。
「…おまえ、いつまで主人の部屋にいるわけ?」
 流成様の言い分にムッとする。「それは失礼しました」と下がろうとしたところ、着物の袖を引っ張られた。
 何ですか、と聞かずとも、その表情から言わんとすることがわかって、息を吐く。
「…寝付くまで、お側にいましょうか?」
 ぱっ、と流成様の顔はほころんだ。
 おまえがそう言うなら、と図々しく続ける。
 早くに母君を亡くしたせいだろうか。流成様は当主としてしっかりしなくてはという気持ちと、まだ誰かに甘えたいという気持ちに挟まれて、なかなか素直になれない御性分であった。
 彼の頭を膝に乗せ、ぽんぽんと背中を叩く。
「…幼い頃の流成様が寝付けない時は、鞠花様はよくこうしてましたねぇ」
「…覚えてない」
「…何だか、ずっと昔のことみたい」
 ほんの数ヶ月前のことなのに、遠い昔の記憶のように思える。
「“子守唄、一つも知らない”と、鞠花様が嘆いてらして。だから、私が一つだけ教えて差し上げたのですが、」
「…どんなの? 歌ってみて」
 流成様の要求に応えて、私は囁くようにそれを歌った。
 ──その唄は、私の母が歌ってくれたもの。大抵の者は幼い頃の記憶がないというが、私は生まれてからのことをずっと覚えていた。初めて空気が喉に触れて痛かったこと、母に抱かれたぬくもり、父の逞しい腕。弟が生まれて母の愛が私から逸れたこと、たくさんの人が集まり、囲まれ、だんだんと家族の運命が狂っていく、その瞬間まで。
「…イツ花、おまえさ」
 微睡みながら、流成様は言う。
 歌を止め、何です?と顔を覗き込むと、彼は眉間に皺を寄せていた。
「絶望的な音痴だな?」
「振り落としますよ?」
 それでも人肌が心地よいのか、いつの間にか、流成様は寝入っていた。
(歌なんて……、ましてや子守唄なんて、)
 眠る流成様の髪をそっと梳きながら、思う──歌うもんじゃない、と。



1030年10月

「ま、ここは太照天昼子だな」
 今月、ようやく成人を迎えた流成様は、交神の儀を控えていた。お相手は天界第一位の神である、太照天昼子その人に決めたらしい。
「高い素質の子が見込めるし、これからのことを考えてうちと繋がりを持っておくのは悪くないだろう」
「もっとこう……、顔とか好みとかで選んでも良いのですよ?」
「女の好みは特にないからなぁ。この世で一番美しくて聡明で強くて優しくて可愛いのは母さんだけど、子を成したい相手かと言われると、絶対に違うし、」
 さらっと実母への重い愛情を告白される。
「まぁ、理由は何でもいいのですが……あ、昼子様を選ぶ と、イツ花の踊りはご覧になれませんけど、いいですか?」
「え、なんで?」
「元々あの舞は昼子様が考案なさったものなんです。交神の儀というのは、天界と下界の一族とを繋ぐ橋のようなもの。でも、昼子様は何かとお忙しいので、今までは巫女である私が代行していたのです」
「代わりでいいなら、別に今回もそれでいいじゃない」
「や、さすがに本家本元の時は気が引けますよぉ」
 苦笑して言うも、流成様は納得していないようだった。
 頬杖をついて、ジト目で私を見やる。
「ま、どっちでもいいけど、」
 私の表情が変わらないので、根負けしたのか、流成様は息を吐いた。
「なら、代わりにその本家本元様が踊ってくれるんだろうな。踊り屋であるオレの前で。さぞや見事な舞なのだろう。あー、楽しみ」
 流成様はそう言って、大きな伸びをした──余計な圧を掛けてくる人である。



1030年12月

 太照天昼子様の元からご来訪したお子様は、小麦色の髪と肌に青い目をした男の子だった。
「まだオッパイを欲しがられて…、ちょっと困っています」
 抱き上げた私からなかなか離れない息子を、流成様は不思議そうに眺めた。
「まるでオレに似てないなぁ。母親の昼子さん似というわけでもないし。母さんの目の色は、青だったのかな?」
「遺伝子って不思議ですねぇ」
 流成様の無遠慮な視線が怖いのか、お子様はイヤイヤをするように私の胸に顔を埋めた。
「よし、名は“黄成(おうせい)”とする。金の髪はうちでは初めてだけど、金ぴかは縁起が良さそうだ!」
 よろしくな、と流成様は息子の頭を撫でた。
 黄成様は隙間からちらと父君を見て、ほんの少しだけ笑った。



1031年 4月

 2ヶ月間の訓練を終えると、流成様たちは地獄の探索へ向かわれた。
 初陣の黄成様を連れていたが、血の池地獄で大八手を打倒し、八手ノお墨様を解放。黄成様の職業は槍使いだったが、初陣から落雷撃、炎突撃、無敵陣という3つの奥義を一気に復活させた。
「昼子さんの血のおかげかねぇ?」
「父さんの訓練のおかげですよ」
 黄成様は殊勝にもそんなことを言う。性格は父親には似なかったらしい。
 続く3月の選考試合では阿部晴明社中に難なく1本を取り、見事優勝を果たした。万歳殺をも復活させ、槍使いの奥義はすべて揃った。

「伸びてきたなぁ」
 黄成様の後ろ髪を撫で、流成様は言った。派手好きな彼は息子の髪の色もお気に入りで、ことあるごとにその髪を指に絡ませては遊んでいた。
 やめてください、と黄成様は不満そうに言って、髪の束を手で引き寄せる。長くなった彼の髪は紫色の布で後ろに一つでまとめられていた。幼い頃はされるがままだったが、最近では反抗する素振りを見せるようになった。
「…願掛けしてるんです」
 流成様の手を逃れた髪の毛先を整えながら、黄成様は言う。
「朱点を討ったら、切ろうかと思って、」
「…なるほどねぇ」
 手持ち無沙汰になった右手を口元に持っていき、ふっ、と流成様は笑う。
「なら、早めに達成しないとな」



1031年 7月

 6月は白骨城への討伐へ赴き、大江ノ捨丸を打倒。その魂を解放した。これで、天界にはすべての神々が揃ったことになる。
「今月、朱点を討つ」
 流成様は高らかに宣言する。とはいえ、不安要素もあるらしい。残念そうに息を吐く。
「本当は“獣踊り”を復活させたかったんだけどな。オレでは力不足らしい」
 幼少期から一人で討伐を繰り返していた流成様の成長は、早い頃に打ち止めとなり、奥義も“花吹雪”と“水の舞”を復活させるに留まった。
「記録によると“獣踊り”は萌子の4回分の効果があるらしい!」
「…4回分! すごい!!」
「けど、ないから、地道に萌子を掛けて倒す」
 きっぱりと言い切って、流成様は息子に拳を突き出した。
 応えるように、黄成様も自身の拳を合わせる。
 ──そうして、二人は地獄へと潜っていった。

 イツ花!と悲鳴に近い黄成様の声が聞こえた──玄関先へ急ぐ。嫌な既知感に眩暈を覚える。
「…負けちゃったぁ!」
 全身血まみれで黄成様に支えられた流成様が、泣きそうな顔で笑った。

「あの野郎、信じられねぇ…! あぁ、気持ち悪い!!」
 大怪我をしながらも、流成様はぺらぺらとよく喋った。武具を外して寝台に寝かせる時も「いてぇ!」だの「もっと優しく!」だの、好き勝手に吠えた。
 黄成様が呼びに行った医者は、流成様の怪我を一瞥するなり、顔色を青くさせて首を横に振った。──無理もない。彼の右腕は肘からちぎれ、左足は膝から下がなく、砕けた骨が露出していた。
 医者の置いていった大量の痛み止めを飲ませるも、怪我で興奮しているのだろう、流成様は話し続けた。
「黄川人のクソ野郎…! 自分の母親に近い人に、どうしてあんな…っ。絶対に許さねぇ! 復讐だろうが何だろうが、やり方ってもんがあるだろうがっ! そうだろ、黄成!? …って、あぁ、おまえの名前、あいつと一字、被ってたな…。なんで、そんな名前にしたんだ? 俺は! …あぁ、くそっ。足も手も、めちゃくちゃ痛ぇ!」
 半時ほどした頃、薬が効き始めたのか、流成様の瞼が重くなっていった。
 父親の最期の様子を、黄成様はしっかりと見ていた。涙を拭う余裕も、武具を解く余裕もなかった。残った彼の左手は息子の手を握り締め、──その力は、爪が手の甲に食い込むほどだった。
「…悔しいな。母さんの仇を取りたかった」
「…俺がっ、俺が必ず朱点を討ちます!」
 ぽつんと呟いた父君の言葉を受け、黄成様は言った。
 ふっ、と流成様は笑う。
「…そう気負うな」
 涙に濡れた息子の頬に手を伸ばそうとしたのだろう、先のない右腕が微かに動いた。
「流されるもよし、流されないよう踏ん張るもよし、自分から流れていくもよし──あとは任せた」
 ふぅ、と短い息を吐いて、流成様はそれきり動かなくなった。
 ぐっ、と父の左手を握りながら、黄成様は俯いて涙を堪える。
 私は彼の瞼に手を伸ばして、半開きになっていた目を静かに閉じた。




18.jpg
流成(りゅうせい)
 前世は:大僧正
 3ヶ月で16代目当主に就任。当家では、2人目の踊り屋。
 4代に渡って母娘だったので、次に男の子が来たら昼子と交神させて、その子と悲願達成をさせようと思っていたのですが。鞠花の早逝から一人でガンガン戦ってしまった影響で、奥義を復活し切る前に成長が止まり、阿朱羅を前に敗走。無念な最期となりました。
 遺言が、名前にぴったりで、見たときは思わず「おぉ…」と唸ってしまった。
 母や祖母に愛されて育ったので自己肯定感がとても高い。その一方で、イツ花に対して悪態をつくのは甘えの表れで、構ってちゃんなくせに察してほしいタイプなので、とても面倒くさい。
 イツ花の正体には過去の記録からも何となく察していたが、躊躇なく昼子を交神相手に選びました。目的のために手段は問わない。
 11人目の氏神“国造宮一本松”として昇天。享年1年5カ月。




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