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一本松家 17代目 黄成

2019.10.05 20:27|俺屍
 一人っ子プレイでイツ花の視点で綴る形式。
 17代目 黄成(おうせい)の記録。1031年8月〜。



1031年 8月

「父さんはやっぱりすごい人だったんだなぁ…」
 先代のご葬儀を終えた黄成様は何気無く呟いた。その手元には神様一覧の巻物があり、新しく追加された氏神の情報が更新されている。
 先代の流成様は11人目の氏神“国造宮一本松”として昇天し、天界では太照天昼子に次ぐ第二位の神として君臨した。男神だけで考えれば、その力は氷ノ皇子様を抜いて、第一位にある。
「“オレが死んで、氏神に上がった方が話が早い”って……思ってたのかもなぁ……」
 巻物をくるくると戻しながら、黄成様は言う。先代が亡くなられた今、その真意は誰にも分からない。
「交神の相手はお決まりになりましたか?」
 それはそれとして、今月は黄成様の成人、つまり交神の儀が可能となる月である。朱点童子打倒としては、次のお子と共に闘うことになるのが──。
 うん、決めた、と黄成様はさわやかに笑う。
「一本松勝利姫様に、」
「えっ、朋花様ですか!?」
 思わず反応してしまって、あ、と口元に手をやる。
「そうか。イツ花さんは歴代の一族を見てるから、ご存知なんですね。勝利姫様のことも、」
 勝利姫、という氏神名が、余計な笑いを誘う。
 ぐ、と唇を噛んで堪えたが、黄成様には見抜かれたらしい。
「…何か問題のある方だったのかな?」
「い、いえ、そんなことは……、」
 答えながらも、肩は震える。今更だが、その氏神名は何なのだ、と言いたくなる。
 黄成様は困ったように首を傾げた。
「お名前が縁起良さそうだと思って選んだのですが……ダメですかね?」
「まさか、そんな、」
と言いつつ、生前の朋花様のことが浮かぶ。
 ──朋花様は、朋成様の双子の妹で、10代目当主に当たる。父と兄、その甥っ子と共に、髪狩り全盛期を司った。その兄、朋成様とは、ジャンケンで、当主と交神の儀の役割を決めた。ゆえに、彼女は子を成さぬまま、氏神となった。
「……“縁起がいい”だけが、理由ですか?」
 私が尋ねると、黄成様は困ったように笑う。
「俺が、女だったら、倫理も道理も無視して、父さんを選ぶのだろうけど、」
「えっと、それは……どういう、」
「えっ。だって、世界で一番かっこよくて強くて優しくてかわいいのは父さんでしょ?」
 さらっと実父への重い愛情を告白される。
 私も同じふうに考えていると思われていたらしく、黄成様は不思議そうな顔をする。
「でも、まぁ、そういうわけにも行かないから、」
 ──ふっ、と笑う。その仕草に、先代の面影を見る。
「こうなればもう、神頼みの他に、仕様がない」



1031年10月

 今月初めにご来訪されたのは、額に二つのツノが生えた女の子だった。
「目も髪も肌の色も、父さんにそっくりだなぁ」
 幼い娘を抱きかかえ、黄成様はしみじみと言う。
「“千花”と名付けよう。千年先も、君には未来があるように──約束する。絶対に」
 指切りげんまん、と黄成様は、娘に手を差し出した。
「うそをついたら、ハリセンボンを飲むのですか?」
 父君の小指に自身の指を絡ませながら、不安そうに千花様は言った。
 飲まないよ、と黄成様は笑った。
 娘の頬に唇を寄せ、彼は続ける。
「…そんな未来にはさせない」



1031年12月

 2ヶ月間の訓練を終え、今月は千花様の初陣である。
 軽く様子見、と早速地獄へと出掛けられた。
 手応えがはあったようで、戻られた黄成様の顔は満足げだった。
「賽の河原で、脱衣婆と三途の渡しを倒したんだ」
「奥義も一つ復活できたよ! “水の舞”!!」
 千花様も嬉しそうに報告して来た。
 朱点童子との最終戦に備え、黄成様はその闘いの方針を決めていた。今まで一本松家が創作して来た、踊り屋の奥義をすべて復活させること──特に無属性攻撃が強い“花吹雪”、1回で萌子4回分の攻撃力強化に当たる“獣踊り”は必須と考えていた。
「初陣で一つ復活できたのは幸先がいいな」
 そう言う黄成様は、初陣で3つの奥義を復活させた実績がある。そのことを知っていた千花様は急にしょぼんとした表情になる。
「…あたしに出来るかなぁ」
 出来るとも!と黄成様は力強く言い切って、娘を抱き上げる。不安そうな娘の頬に自らの頬を寄せるように抱き締めて、続けた。
「君は私の娘で、私の父、流成の孫なのだから」
 ──黄成様の言葉の通り、年明けの1月の討伐では“獣踊り”、2月の討伐では“花吹雪”を復活させた。

 額のツノを気にされてか、千花様は頭に布を巻くようになった。父君が願掛けに伸ばした髪をまとめる細布と同じ紫で、外に出るときはそれでツノを隠す。
「…鬼を斬り過ぎたから、生えてきたのかなぁ?」
 額を布で隠しながら、千花様は不安そうだった。
 あの一族は鬼を斬り過ぎたのだ、その呪いでツノのある子が生まれたのだ──と、口さがない者が噂するのを耳にしたことがある。
「こんな可愛い鬼なら、退治しようがないなぁ」
 娘の頭を優しく撫でつけながら、黄成様は言う。千花様は照れたように笑った。
「鬼も、我が一族も、実は祖を同じにする──と。あの子にはまだ話せないな…」
 娘のいないところで、黄成様は一人ごちる。
 そうですね、と私は暗い気持ちで同意した。



1032年 3月

「今月、朱点を討つ」
 黄成様は静かに宣言した。
 はい、と娘の千花様は神妙な顔で頷く。
「今日一日はやりたいことをやろう。何か食べたい物や行きたいところはあるかな?」
 父君に問われ、千花様はパッと顔を輝かせた。
 きれいにしたい!と千花様は元気に言う。
「きれいに? 部屋の掃除とか?」
「いえ、父さんを、」
「は?」
「え?」
 千花様の発言に、黄成様に続いて私も疑問の声を上げてしまう。
 ニコッ、と笑って千花様は立ち上がる。パタパタと走って自室へ向かい──戻られたその手には化粧道具一式が抱えられていた。

「父さんったら、動かないでってば!」
 父君の顔に白粉をはたきながら、千花様は言った。
「刷毛がくすぐったくて…くくっ…!」
 黄成様は我慢しきれないようで、身をよじる。
 千花様が持ってきた化粧道具は、壱花様の代に私が揃えたものだった。鬼斬りが家業である一本松家の女性が日常で化粧をする機会は少ない。あるとすれば、それは交神の儀くらいだ。
 身を飾ることに対する興味も、個人で大きな差がある。春花様や菊花様はわりとよく紅や爪を塗ったり眉を整えたりしてらしたが、静花様や朋花様は頓着しない方だった。唯一の例外──過去に一人だけ、男性で化粧を施した者があった。
「ほぉら、きれいになった!」
 最後の仕上げに紅を塗って、千花様は満足げに言った。
「ははっ、ありがとう」
 黄成様は笑って、どうですか?と私の方を見た。
 白い肌に唇の赤がよく映えた。元々柔和な顔立ちだが、願掛けのために伸ばしていた髪も相まって、なかなかの美人に仕上がっている。
「千花様は、お化粧がお上手ですね」
「ふふ。踊り屋たるもの、化粧は嗜みの一つ、とじいじの記録で見たの。その時から、ずっとやってみたくて!」
「…自分の顔でやればよいのに、」
 黄成様はやれやれというふうに息を吐く。
「化粧は成人してから、とも書いてあったから」
「なぜ?」
「子どもの肌は弱いからですよ、多分」
 適当に私が答えると、黄成様は不思議そうな顔をした。
「イツ花さんも、化粧はあまりしないですね」
「私はただの小間使いですから、」
「すればいいのにぃ! きれいになるよ〜」
 千花様の勧めに、私は曖昧に微笑む。
「ここぞという時に化けてこそ、効果があるものです」
「ここぞ、ねぇ」
 繰り返して、黄成様は手鏡に移った自分の顔を覗き込んだ。
「…父さん、化粧なんかしてなかったけどなぁ」
 黄成様は首を傾げる。
「……一度だけ、ありましたねぇ」
 思わず口に出て、はっとする。二人の注目が集まってしまい、後の祭りだと気付いた。
「いつです?」
「交神の儀へ向かわれるときに、」
「白粉はたいて紅を塗って!?」
「いえ、紅は塗ってませんでしたが、」
 口で説明するのが難しく、千花様の施した化粧を落として再現することになった。
 失礼、と黄成様の顎に手を添える。白粉は水に溶かして極力薄く広く伸ばす。瞼には赤い影を入れ、色の濃淡を意識する。目尻ははっきりと墨で黒く縁取った。
「…おぉ、」
「父さん、かっこいい!」
 仕上がった顔を見て、親子は歓声を上げた。
 ──まるでオレに似ていない、と先代は息子を見て言った。
 どこがだ。
 化粧映えする顔も、節の目立つ手も、笑い方も。
 何もかもがそっくりじゃないか。
「…イツ花さん?」
「…どうしたの?」
 え、と声を上げて、頬に手を触れる。そこで初めて泣いていることに気が付いた。
「えっ、あれ? おかしいなっ……。あれっ……?」
 涙が次から次へと溢れ出る。
「すみません、なんか…。止まらなく、て……」
 俯く私の肩を、黄成様が抱き寄せた。幼子にするように、ぽんぽんと背中を叩かれる。──この子は夜泣きなんかしなかったのに。
 私も!と意味も分からずに、千花様が私の背中を抱き締めた。子どもの高い体温がじんわりと背中を温める。
 二人に挟まれるように抱えられ、私はしばらく泣いてしまった。

 イツ花!と千花様の高い声がして、私は玄関先へ急いだ。地獄からお戻りなられた二人は泥だらけで、多少の怪我もあったようだが、五体満足での帰還であった。
「やったよ、私たち!」
「ただいま、帰りました」
 私の顔を見ると、黄成様は穏やかな笑みを浮かべて言った。
 ──1032年3月。
 ついに阿朱羅を討ち果たし、一本松家の悲願は達成された。






終わらないんだよなぁ…。
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