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一本松家 延長戦 03 終

2019.10.07 23:48|俺屍
 一本松家の記録。延長戦、第三幕。
 帰ってきたイツ花と、新しい家族。




 一本松家に新しい家族がやってきたのは、5月のよく晴れた日の朝だった。
 屋敷の前では、黄成と千花が並んで待っていた。
「来たぁ!」
「おかえりなさい」
 イツ花の姿を見ると、黄成は当たり前のようにそう言った。
「ただいま、戻りました」
と、彼女は少し首を傾げ、照れたように笑う。
 イツ花の腕の中には生まれて数ヶ月の赤子がいて、すやすやと安らかな寝息を立てていた。
「これが赤ちゃん…」
「髪も生えてないし、目の色もわからんなぁ」
「どんな色になるかも、楽しみのうちですよ」
 3人で赤子の顔を覗き込み、それぞれに言う。
 イツ花から、黄成は赤子を受け取る。ふにゃ、と声を出して、赤子が目を覚ましかけたので、全員に緊張が走ったが──よしよし、と少し揺すると、赤子はまた静かに寝息を立て始めた。
「…名前を決めないと、」
 息子の寝顔を見て、黄成は微笑んだ。



 赤子の名は、一本松家のしきたりに従い、「仁成(ひとなり)」と名付けられた。優しい子に育ちますように、という願いが込められている。
「“黄川人”の“人”から取ったの?」
「分かりやすくていいだろ?」
「まんま過ぎじゃない?」
「名付けなんて、そんなもんでいいんだ」
「“川成”じゃ、ダメ?」
「苗字みたいだから、」
「父さんの名前に“黄”がなければねぇ」
「…それはじいじに言ってくれ」
「“仁成”──人に成る、かぁ。皮肉だなぁ」
 弟の名付けに散々文句を言いつつも、千花はよく彼の面倒を見た。
「父さん、ひぃくんがうんちしてる!」
「父さん、ひぃくんが眠いって!!」
「父さん、ひぃくんがくしゃみしたぁ!」
「父さん、ひぃくんが、」
「わかった! 今、行く! 今、行くから!!」
 娘に呼ばれる度に作業の手を止め、黄成は赤子の元へ駆け付ける。赤子への授乳は3時間おきに必要で、家事と乳の用意だけで一日は目まぐるしく過ぎて行った。
 仁成は夜泣きもひどかった。夜に泣き出すと、外に連れ出して、半刻ほど散歩させると泣き止む。黄成とイツ花は交代で子守りを行なった。月の光が好きなようで、手を伸ばしては掴もうとする動作を繰り返していた。



 仁成が歩き始める頃、髪もだいぶ生え揃ってきた。
 髪は赤、目の色は金で、やっぱうちの子だねぇ、と千花は自分の髪色と同じことを素直に喜んだ。
 仁成の言葉は遅いようでなかなか話し出さなかった。だが、意思の疎通は何となくできるらしく、特に千花は彼の気持ちをよく理解した。
「そういえば、すっかり忘れてた」
 朝、顔を洗っている時、背中まで伸びた髪に黄成は気付いた。ハサミを持ってイツ花の元へ行く。
「イツ花さん、これでジャキッとやってくれない?」
「え、何をです?」
 言われるままにハサミを受け取るが、イツ花は混乱して頭に「?」を3つほど浮かべた。
「髪を切るんですよ。朱点を倒したら、切ろうと思ってたのに、すっかり忘れてて、」
「あぁ〜。そんなこと、言ってましたねぇ」
 それは彼なりの願掛けだった。だが、朱点討伐後も、家事に育児に追われ、すっかり忘れていたのだ。
「…そもそもまだ、いますけど、」
 言って、イツ花は中庭に目をやる。
 庭では、千花が仁成と遊んでいた。遊ぶ、と言っても、よたよた歩く仁成を、転ばないように千花が誘導する程度のことだったが。
「別にいいさ。というより、これを切って、売ろう」
「髪を売らないといけないほど、うちはまだ逼迫してませんよ!?」
「どうせなら、って話。珍しい色だし、長いから、高値がつくよ、きっと」
 よいしょ、と彼は私の前に座る。
「というわけで、根元からバッサリよろしく」
「…もったいないですねぇ」
 躊躇いながらも、イツ花は黄成の髪にハサミを入れた。キメの細やかな彼の髪は、こうして体から離れてしまうと金色の糸のように見えた。
「これなら、確かによい値で売れそう…」
「それで、卓や文具を揃える足しにしよう。そろそろ手習い所を開きたいから、」
 そんな話をしていたら、ピャー!と高い声で泣く子どもの声がした。そちらを見ると、仁成が真っ赤な顔で泣いている。
「どうした、仁成?」
「怪我でもしたの?」
 黄成とイツ花が慌てて駆け寄ると、千花が後ろから弟を抱き上げ、よしよしと頭を撫でた。
「父さんの髪がなくなったから、びっくりしたんだよね?」
「えっ。そんなことで…?」
 ぐずぐずと鼻をすする仁成は、千花が撫でているうちに落ち着いてきたようだった。頬についた涙の粒を、イツ花は笑いながら、布で優しく拭き取った。



 手習い所は出だしこそ難儀したが、一年、二年…と続けていくうちに、評判が評判を呼び、三年経つ頃には経営も安定してきた。その頃には千花も教える側に回るようになり、仁成は生徒として座るようになった。
 幼いながらに仁成は賢く、この頃にはよく言葉も出るようになった。「詩経」や「論語」は丸暗記して諳んじることもできたし、3桁程度ならば暗算で答えられた。
 五歳になる頃には、家にある書物のほとんどを読んでしまったようだ。そして、事件は彼が七つになった年に起きた。
「僕、父さんや姉さんと、血は繋がってないの…?」
 突然、何を言い出すんだと口から出る前に、彼が手にしていた草紙──歴代当主が綴ってきた記録“一本松家 英雄伝”を見て、黄成はすべてを理解する。
「私の部屋には入ってはいけないと、あれほど言ったのに、」
 私の部屋──とは、当主の部屋である。鬼に関するすべての記録が保存してあったが、今となってはもう読み返すこともない資料の山であった。
「…他に読むものがなくて、」
 一度読めば書物の内容を覚えてしまう仁成は、常に新しい知識に飢えていた。当主の部屋にも興味津々だったのだが、術の巻物や過去の“彼”に関する話が詰まっているので、立ち入りを禁止していたのだが。
「知ってしまったのなら、仕方がない。──そこに座りなさい」
 黄成は息を吐いて、息子を促した。仁成はおとなしく従う。騒ぎを聞きつけたイツ花と千花は、部屋の外からその様子をそっと見守った。
「本当は成人した時にでも話そうと思っていたのだが、……まぁ、君は賢いから、今、話しても理解できるだろう」
 仁成は不安そうに父の言葉を待った。
 黄成はゆっくり言葉を選んで話す。
「その記録にあるように、君はこの家の養子だ。私や千花とは直接の血は繋がっていない。君の母親は遠いところにいて、事情があり、うちに君を預けた」
「事情って…?」
「んー、説明するのが難しいなぁ」
「ちぃ姉さんも、“あたしの母さんはお空の遠いところにいる”って言ってた。それと同じ?」
 ちぃ姉さん、とは、仁成の千花の呼び名である。なお、イツ花のことは、だい姉さんと読んでいる。母と呼ぶには年若い彼女に対する配慮らしい。
 んー、と黄成は唸る。
 道理で言えば、同じである。
 氏神を母に持つ千花と、神を母に持つ仁成とは。
 しかし、彼はこの言葉をそういう意味では捉えていないだろう。
「うん、同じだ」
「そっか…」
 ──黄成は面倒くさくなって、そう答えた。
 仁成は何やら神妙な面持ちで頷く。
「ともかく、君は養子だが、うちとは遠縁に当たるのだ。まったくの赤の他人とは違う。その縁もあって、うちへ来たんだよ」
「…うん、」
 それでも、仁成の表情は晴れなかった。
 ふぅ、と黄成は息を吐く。
「驚いたかも知れないが、私は家族に血の繋がりがそんなに大事だとは思わない。イツ花は、私たちとは血の繋がりはないが、」
 ぶはっ、とイツ花が遠くで噴き出した。
 何、と隣にいた千花が驚く。
「す、すみません……」
 手で制して謝るも、イツ花は笑いは堪え切れないようだ。そのまま身体を折り曲げてしまう。
 黄成はそんな彼女を放って、話を続ける。
「イツ花とは、血の繋がりはないが──私は家族だと思っている。君はどうだ?」
「僕も、そう思う…」
 仁成の言葉を聞いて、千花はイツ花の方を見た。よかったね、と小さな声で笑いかける彼女に、イツ花も微笑み返す。
「うん。だから、血の繋がりなどと、つまらないことは気にせずに──、」
「だから、ちぃ姉さんは、僕がお嫁さんにしてもいいってことでしょ?」
 続く仁成の言葉に、黄成は凍りついた。
 ぶはっ、と再びイツ花は噴き出す。
 千花は怒って立ち上がった。
「またその話っ!?」
「だって、“ツノの生えた女を嫁にもらう男なんかいない”って言うから、僕が!」
「おしめを替えた相手の嫁になる女なんて、いないっての!」
 再び、イツ花が噴き出す。
 黄成も、これには堪らずに噴き出した。
「もう、イツ花も父さんも何なの!?」
「僕は真剣なのにっ!」
 イツ花は目尻の涙を拭きながら、身体を起こした。
 あー、おかしい、と声に出して笑う。
「まだまだ先の話ですから!」






19.jpg
前世は:遣唐使
 9か月で17代目当主に就任。職業は槍使い。
 イツ花の正体については分かっていたが、母と名が明かせぬ関係にちょっぴり苦しんだ時期もあった。お父さん大好きっ子なので、槍使いよりも踊り屋に憧れがあったり。
 複雑なところもあったが、当人は我慢強い性格なのであまり表立ったことはなかった。
 そのあたりは交神相手の朋花にだいぶ救われた模様。
 朱点打倒後、天寿を全うする。氏神の話は断った。

20.jpg
前世は:遣唐使
 一本松家、3人目の踊り屋。
 祖父のカラーリングにそっくり。最後の子にツノっ娘が来たのはなかなか…。
 平和になったので記録を読み返すこともなく、イツ花のことや鬼たちの秘密も知らずに育つ。
 仁成と千花の年齢差は10歳くらいなので、延長戦最後の時、千花は17歳。当時の感覚で言えば、結婚のことはまったく先の話ではないのだが。仁成が15歳くらいになる頃には押し切られて結婚。25歳でお嫁さんに。でも、同じ家だから、暮らしは変わらなさそう。
 この場合、仁成と千花は、大叔父?と姪っ子の関係にあるけど、まぁ、遠いから大丈夫か。紅成と春花の例もあるし。
 旦那のわがままに付き合って、天寿を全うした後は氏神入りする。


仁成(ひとなり)
 画像は割愛。
 姿かたちは黄川人そっくりに育つが、中身はまったくの別人なので、これをオリキャラとするか、何なのか、判断が難しいところ。
 天才なので、当主の部屋が解禁した後は必要もないのに術を覚えたり奥義を生み出したりした。その才能ゆえに、帝から声がかかるも、本人は手習い所で子どもらに教える方が楽しかったので、そっちで生計を立てる。
 15歳くらいになって、千花の身長を超える頃、ガチで落としにかかり、見事に射止める。子どもは3人くらい?
 死後、氏神として昇天。一本松家の子なので、朱星ノ一本松という氏神名となる。



 最後にイツ花が家族の話題で笑えるようになってよかったな。
 一本松家に幸あれ!
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