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わぎもこに…

2019.10.14 12:23|俺屍
 一本松家、番外編。
 イツ花の知らない、交神の儀での話。
 黄成・一本松勝利姫(朋花)編。


  
 交神の儀は、イツ花の案内によって下界と天界との狭間へ通されるところから始まる。
 その出入り口は、都の外れにある寂れた小さな神社。普通のヒトが社の扉を開けても、そこには古びた小さな鏡しか置いてないように見えるらしいが、イツ花が手順を踏んで開けば、異空間へと繋がる。
 その空間は指名した交神相手によって、演出がなされているらしい──それは時に夜の森であったり、時に黄昏の国であったりした。
 ……なので、黄成は扉を開いて拍子抜けしてしまった。
 そこは自宅の屋敷によく似た場所だったからだ。
「あ、いらっしゃ〜い」
 襖の向こうからひょこっと顔を出したのは、赤髪に萩色の飾り布を巻いた女だった。神様一覧の幻灯図で見た、一本松勝利姫、その人。
「は、はじめまして」
「こちらこそ、はじめまして」
 勝利姫──朋花は、にこやかな笑顔で迎える。その雰囲気にホッとして、黄成は改めて辺りを見渡した。
「あの、ここは…?」
「あ、すごいでしょ? うちに似せた方が落ち着くかと思って!」
 どうぞ、と朋花は黄成を客間に案内する。どうやら彼女はこの空間を実家に似せて作ったらしい。
 客間に通されてしばらくすると、お茶を持って朋花が戻って来た。粗茶ですが、と出されたお茶を一口飲むと温かく、人心地着く。
「どう? 少し落ち着いた?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、早速する?」
「えっ? ……って、わー!!!」
 朋花が着物の襟をぐいっとはだけさせた。黄成は目を覆って声を上げる。
「しまってください!!」
「えっ、そう?」
 朋花が襟を直したのを指の隙間から確認して、黄成は一息つく。彼女を交神相手に指名した時、イツ花の反応──その意味が、何となく分かった。
「こういうことには順序というものがあるでしょうに…!」
「ちゃっちゃっと済ませちゃった方が早いのに。1週間しか居られないんだよ?」
「1週間もあるんです! もっとゆっくりと、」
「他に会いたい方もいるんでしょう?」
 朋花に言われ、黄成はハッとする。
 この状況で、氏神である彼女を交神相手に指名することの意味を──彼女は見抜いていた。
「はい……。出来れば、歴代の氏神様たちにお会いしたいのです。これからのことや今までのことを、情報共有できれば……っ!」
 やっぱりね、という顔で、朋花は頷く。
「それなら、甥の常成と13代目の菊花さんを呼びましょう。あの二人はその話題についてよく話していたから、」
「ありがとうございます…!」
 話がトントン拍子に進んで、黄成はホッとする。突飛なところもある方だが、話は分かる方らしい。
 ちょっと待っててね、と朋花は立ち上がると、部屋の襖を開けて大声を上げた。
「ねぇー! ホウちゃーん、いるぅー?」
「なぁに? トモちゃーん!」
「ツネ、呼んできてー!黄成くんが話したいってー!」
「えー? ツネは今、お紺さんのとこだよー!!」
「またぁ? 呼んできてよ、ホウちゃーん!」
「えぇ〜、やだよぉ〜!」
「あと菊花ちゃんも!!」
「えー……」
「急いでー!悲願達成が掛かってるんだからぁ!」
 そのやりとりを見ながら、黄成は反応に困っていた。
(……なんだろう。この実家感は)
 ──ほどなくして現れた二人の氏神、常立ノ一本松こと常成と、仙女一本松こと菊花は、いつかの幻灯図で見たその人たちそのもので、黄成は妙な感動を覚えた。
 二人を部屋に通すと、朋花は「どうぞごゆっくり~」と言って奥へ引っ込んでいった。
「待たせてすまなかった。11代目当主を務めた、常成と申す」
「はじめまして。13代目当主の菊花です」
 それぞれの挨拶に、黄成は頭を下げる。
「17代目当主の黄成です。お忙しい中、ご足労いただきまして、ありがとうございます」
「忙しいだなんて、そんな…。お祖父様はお忙しかったようだけど」
 菊花は横目で常成を見やる。
 う、と小さく呻いて、彼は気まずそうな表情をした。
「仕方ないだろう! そもそも他人の交神の、しかも初日に呼び出されるなんて考えない…!」
「もうお紺様もこちらにお招きすれば? 通い婚なんて下界の慣習を続けなくても、」
「…そ、それはともかく、」
と常成は咳払いを一つして、話題を切り替えた。黄成に目を向ける。
「修羅の塔の奥まで到達したらしいな?」
「はい。どうにか八ツ髪までは倒せたのですが…、」
 黄成の言葉に、菊花は目を伏せる。
「阿朱羅…。天界から様子は見ていたけど…。お父上は残念なことでしたね」
「…父も、覚悟の上だったのだと思います」
 最期の父の姿が頭に浮かび、黄成は苦い顔をする。
「仇は取ります。私の子と一緒に…!」
「えぇ、そうね。きっとあなた方なら、出来ます」
 菊花の力強い言葉に、ありがとうございます、と黄成は微笑む。
「──で? その最終局面の交神の儀で、我々を呼び出した理由は?」
 常成に促され、黄成は小さく頷く。
「単刀直入に申し上げます。朱点に掛けられた呪いについて……奴を倒した後、本当に呪いは解けるのでしょうか?」
 常成と菊花は互いに目配せをしやった。
 二人とも何とも言えない表情を浮かべている。
 黄成は続ける。
「先代方から受け継いだ資料や記録を見て、黄川人と天界の関係について、概ねのことは分かりました。同時に、不安にも思うのです。奴の言葉の数々──“もう一人の朱点童子”。神の力を我ら一族は越えようとしています。現に、私の父は天界第二位の氏神として昇天しました。もし、このまま朱点を討ったとして、天界は我らのことを放っておくでしょうか…?」
 ふぅ、と菊花は首を横に振りながら、息を吐く。
「…放っておかないでしょうね」
「──ならば!」
「だからこその、氏神10人計画だったんだ」
 常成が、菊花の代わりに続ける。
「天界の動きが怪しいことには俺も気付いていた。だから、歴代の記録に、分かる者がそれとなく気付くよう、そのことを記した。娘の結花は気付かなかったが……孫の菊花は気付いた。そして、彼女は考案した」
 菊花がその先を進める。
「氏神が10人になるまで天界に一族を送ること──長期化する地獄巡りにおいて、また悲願達成後の一族のために、有効な手段だと思いました。朱点討伐後、例え天界が一族に何かを為そうものならば、天界からそれを阻止する。天界の掌握権を取ることも含めて、検討していたことです。あの太照天昼子といえども、10人も氏神を相手にすれば、無傷では済まないでしょうから…、」
 そこまで言って、菊花は言い淀んだ。
 あぁ、と常成も気が付く。
「昼子さんはあなたの、」
「…母です」
 黄成は困ったように少し微笑む。
「彼女の正体はやはり…、」
「イツ花だろう、恐らくは」
 常成はずばり言い切る。
 そうか、と黄成は息を吸って吐く。
「…そんな気はしていました」
 何と声を掛けたらよいものか分からず、常成と菊花は互いに顔を見合わせる。
「よいのです。覚悟はしていました」
 黄成は顔を上げて二人を見る。
「…幼い頃は、親子と名乗れぬ関係が心苦しくもありましたが。どんな形であれ、私は父と母と、三人で過ごす時間があったのです。他の方々に比べれば、果報者ですよ」
 そう言って健気に笑う黄成に、菊花は微笑み、常成は目を丸くした。
「…おまえは本当に国造宮の息子か?」
「えっと、それはどういう、」
「あの男からこんな殊勝な息子が育つだなんてっ!」
「…お祖父様、失礼ですよ」
「あの、父は一体、こちらで何を…?」
「何をも、何も! あいつがこちらに来てから、やりたい放題だ。それぞれの氏神衣装を仕立ててみたり、でかい屋敷を作って、一族全員を住まわせてみたり…。挙句に、懇意にしている神々を茶に誘ったりして。太照天側がピリピリしている」
「…それは、つまり、」
「つまり、まぁ、そういうことですね」
 菊花が後を引き受けて、続ける。
「国造宮…、もとい流成殿には、その準備があるということ。彼らに対抗する準備が」
 なるほど、と黄成は納得して、同時に父らしいと思い、苦笑する。
「おまえもあとで見に行くといいぞ。無駄に派手だから」
「父は、合理的な人なので…。無駄なことには労力を使いませんから、衣装も屋敷もきっと必要なことなのでしょう」
「あちらを刺激する、という意味では、確かに効果はあったが」
 常成は呆れたように呻く。
「確かに。今のところ、有事の際にあちらと交渉するのならば、流成殿が適任でしょう。私たち氏神全員の見解です。昼子さんと縁もありますし、何より口が立つ」
 菊花の父親の評価に、黄成はぐっと笑いを堪えた。
 だから、と彼女は微笑む。
「こちらのことは安心して。あなたはあなたの使命を果たしなさい」
「最期まで油断するなよ。敵も覚悟の上だ。全力で撃て」
 祖先の二人に励まされ、黄成は「はい!」と大きく返事をした。
 ふっ、と菊花が目を伏せる。
「あなたの母上のこと…、どうか恨まないでね」
 彼女の言わんとすることが分からず、黄成は首を傾げた。
「私が言えたことではありませんが…。私はね、氏神10人計画を娘に話した時、彼女のことをひどく傷つけてしまったの。でも、娘は我慢強い子だったから、私はまったく気付かなくて──天界に来て、和解することはできたけれど、」
 菊花は顔を上げて、黄成を見た。その目は少し潤んでいる。
「昼子さん──イツ花も、きっとそれしか道がなかったのだと思います。どんな理由であれ、彼女は私たちの傍にいて、家族と同じように一族を見送ってきたのですもの。そこに情がないとは、私には思えない…」
 どうかな、と常成は鼻を鳴らした。
「天界の代表格たる女神だぞ? その程度の演技なんてお手のものだろう。彼女の心の内など、誰にも分からない」
「お祖父様…、でも!」
「菊花、おまえは自分の心情を彼女に重ねるんじゃない。彼女と黄成の問題と、おまえと娘の問題は別だ。彼女をどう思おうが、それは黄成自身の話だろう。家族というのは、そう簡単に、他人が判断していいものではない」
 例え祖先であっても、と常成は言葉を切った。
 祖父の厳しい言葉に、菊花は「そうですね…」と小さく言って項垂れる。
 どちらの言葉も、黄成にはありがたかった。
 どちらの言葉も、正しい、と黄成には思えた。
 ありがとうございます、と改めて、彼は頭を下げる。
 必ず朱点を討つ、と心に誓って。



「お話、終わった?」
 二人が帰った後、ひょこっと朋花が顔を出した。深刻な話し合いが続いた後だったので、彼女の笑顔を見て黄成はほっとする。
「はい、おかげさまで、」
「よかった」
 部屋の中に入って、朋花は黄成の目の前に座る。
 どうぞ、と持ってきた茶を振る舞われた。ずっと話し通しだったので喉が渇いていた。ありがたく頂く。
「…話ができて、本当によかったです。自分がやるべきことがハッキリしました」
「気持ちに整理がついたなら、よかった」
 笑いながら、朋花は持ってきた茶菓子を口に入れる。よく噛んで飲み込んでから、続ける。
「でも、菊花ちゃんやツネの話についていけるなんて、黄成くんも賢いのねぇ」
「いや、そういうわけでは、」
「私やホウちゃんはそういうの、てんでダメ! だから、ツネにいろいろ任せちゃった」
 朋花は10代目の当主だと聞いている。が、“当主”でもいろいろな考えや在り方があるらしい。
「ホウちゃん、というのは、双子の?」
「うん、お兄さん! 朋成だから、ホウちゃん!」
 嬉しそうに朋花は言う。
「仲がよろしいのですね。一緒に暮らしているのですか?」
「うん、まぁね」
 ふふ、と彼女はお茶を一口飲む。
「私たちは双子だったから、交神も当主も役割分担しちゃった。だから、戦うのも考えるのも、それぞれ得意な方がやろうね、って考えで、ツネにやってもらってたんだけど、……あの子は、それがちょっと嫌だったみたい」
「そうですか…? そうは見えなかったけど、」
「だって、ツネ、私とホウちゃんにとっても厳しいんだよ? どっちが年上か、分かったもんじゃないよ」
 口を尖らせる朋花に、黄成はくすりとする。──少し話しただけだが、常成の人と成りがよく分かった。彼の厳しさは優しさの裏返しなのだろう。
「ツネのお母さんは常夜見お風さんなんだけど、なんか距離あるんだよねぇ。私とホウちゃんとは仲良しなのに、」
「お兄さんの交神相手とお会いになったのですね」
「うん。ほっぺた、触らせてもらったの。すべすべのほわほわだった…」
 うっとりとした表情で、朋花は言う。
「ツネのお嫁さんのお紺さんにも会いたいんだけど、ダメ!ってツネが言うの。尻尾をふわふわしたいのに…。独り占め、よくないと思わない?」
「独り占め、って」
 なんだか特異な考えの持ち主だな、と黄成は返答に困る。
「…朋花さんは、女の方がお好きなのですか?」
「んー、どうだろ? 考えたことないなぁ。でも、女の子は柔らかくてすべすべでいい匂いがするから、好きだよ?」
 そうですか、と黄成は手にした湯飲みに視線を落とす。
「あ、でも、男の子は試したことないってだけで、別に大丈夫だよ???」
 余計な気を回した朋花が慌てて言い繕うも、雰囲気は重いままだった。
 えーっと、と彼女が困るのを見かねて、黄成は口を開いた。
「…私はどちらにも興味が持てないのです」
 あら、と朋花は口元に手をやる。
「“好き!”って思わないってこと?」
「親子の情は分かります。近所の子もかわいいと思います。……ですが、もし、交神の儀を必要としない、普通のヒトであったなら、子を望んだかどうか──、」
「へぇ。なら、よかったねぇ」
 あっけらかんと返された朋花の言葉に、黄成は顔を上げて彼女を見る。 「だって、別に交神なら血を器に入れるだけで済むし。それで、子どもを授けられるんだもの。気が楽じゃない?」
 言われて、あぁ、と黄成は納得する。
「そう、…そうですね」
「うん、よかったね」
 よかったね、と言われて、黄成はそれを素直に受け取ることができた。よかった──そんなに難しく考えることではない。
「なら、この1週間は天界の面白いとこを案内してあげるね! あ、ホウちゃんも一緒でいい?」
「はい、…ありがとうございます」
 噛み締めるように言って、黄成は手を伸ばした。朋花の手を両手で握り、俯いて、もう一度言う。
「……本当に、ありがとうございます」
「大袈裟だなぁ」
 よしよし、と黄成の頭を朋花は軽く撫でる。
 大丈夫よ、と彼女は笑って言った。






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