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一之関家 初代 千歳

2019.11.08 21:08|俺屍
 一人っ子プレイで、子の視点で綴る形式。
 初代 千歳(ちとせ)の記録。




 さぬきのみやつこは竹林の中でかぐや姫を見つけたというけれど、私は朱点童子が住うという大江山の麓で拾われた。
 鬼の親玉の根城だけあって、麓でも害を為す鬼はウジャウジャ居て、そんな危ないとこにばあちゃんは何しに行ってたの?と聞けば、人が来ないから山菜採りによい場所があるんだよと呑気に答える。
 ばあちゃんは連れ合いをだいぶ前に亡くしたとかで、それからずっと京の都の外れにあるこの掘立小屋で一人で暮らしてきた、らしい。
 若い頃は宮中に参内して皇后様や媛様の女房もやっていたとかで、元々は身分のある人だったのではないか、と今では思っている。ばあちゃんは字も読めたし、いろんなことをよく知っていた。
 大江山の麓で拾われた私は、青い髪に緑の目という特異な風貌に付け足し、異様な速さで成長したので、近所の人たちは「鬼の子だ」と言って避けた。
 元から一人で生活してきたばあちゃんには痛くも痒くもなかったようで、気にせずに私のことを育ててくれた。
 ばあちゃんには子がなかったので、赤子の私を見つけた時は神が授けてくれたのだと思った──なんて、信心深い理由ではまったくなくて、「あのまま泣き叫ぶアンタを見殺しにしたら、そっちの方が呪われそうだったからだよ」とこともなげに語った。ばあちゃんは学があるのに素直な人ではなかった。
 ばあちゃんは本当に優しい人で、優しい人だったからこそ、異様な速さで大きくなる私に厳しく、様々なことを教え込んだ。食べられる野草の種類、採れる場所、魚の捌き方、字の読み書き、店での値切り方、しつこい男のあしらい方──いつか一人になっても困らないように、と事あるごとにばあちゃんは言った。
 私が拾われてから7ヶ月、13歳くらいの見た目になった頃、ばあちゃんは鬼に襲われてあっさり死んだ。今の都ではよくあることだった。
 これからのことに不安はなかった。
 ばあちゃんに教わったことを一つずつこなしていくだけだ。
 見た目が他と違くても、私には人より頑丈な身体と、ばあちゃんが授けてくれた知恵がある。
 一人でも生きていける。
 ばあちゃんの弔いを済ませたその夜、一人で床について覚悟を決めた。
 それからしばらく、一人で暮らした。
 畑の面倒を見たり山菜を取ったり獣を罠に仕掛けて獲ったり。それを売りへ街に出掛けたり、日雇いの仕事をしたり。
 一人でも何とかなるもので、だんだんとその生活にも慣れて来て1ヶ月くらい経った。
 その夜、不思議な夢を見た。



「一之関の血を継ぐ子、千歳よ。目覚めなさい。あなたに、大切な話があります」
 夢の中で女が話している。穏やかな中にも、どこか凛とした印象を与える、上品な女の声だった。
 “一之関”という名前は、私の本名だ。“千歳”の名前と共に、山で捨てられていた赤子の私の手には御守りがあり、中の紙片にそう書いてあった。
 女の声は続ける。
「朱点童子は、一之関一族の復讐を恐れ、その血に忌まわしいふたつの呪いをかけました。ひとつは、短命の呪い。あなたは、常人の何倍もの速さで成長し、数年で死に至ります」
 朱点童子? 復讐? 
 何のことだか、さっぱりわからない。
 けど、なるほど。
 “呪い”なら、数ヶ月でこんなに育ってしまった私の異様さには説明がつく。
 そうか…。私は長くは生きられないのか…。
「もうひとつは、種絶の呪い。あなたは人と交わり、子孫を残すことができません。このふたつの呪いは、朱点童子を倒さぬ限り、永久に消えないのです」
 どの道、この異様な見た目の女を嫁に欲しいという男はいないだろう。
 子ができないのは別に構わない。
 ましてや、「寿命が短い」と聞かされて、どうして子を望めようか?
「一之関の血を継ぐ子、千歳よ! 絶望している暇などありません。もはや人間に残された最後の希望の光は、あなたの血の中にしかないのですから……」
 そんなこと言われてもなぁ…。
 この人は、私に何を求めているのだろう?
「あなたも私たちも選べる道はひとつ。あなたの子を、残しなさい! 私たち神と交わるのです」
 ──ん? 今、なんて?
「そして、少しずつ力を蓄え、いつの日か朱点童子を 討ち果たしなさい!!」
 ──んんん? 私が???
「一之関一族に、安らぎと栄光を。地上には、平和と繁栄を。あなたの血で取り戻すのです」
 待って待って!
 そんなこと、急に言われても!?
「さあ、この四人の中から、あなたの最初の子の父となる神を選びなさい」
 そうして、闇の中に浮かんだのは4人の美丈夫。その中には、ヒトとは思えぬ肌をした男やウサギの耳のようなものが生えた男がいた。
 ──いや、だから、待って。
 そんなこと、急に言われても!!
「…困っちゃいますよねぇ」
 こちらの気持ちを察したのか、同じように困ったような顔で笑いかけた男があった。シカのような角が頭に生えた男。
「あの、これは一体、何なのでしょうか? 朱点童子を倒す? 神と子を作る? 何の夢?」
 混乱する私を見て、角の男ははますます困ったような顔をする。隣の黒髪の男に目をやると、彼はやれやれというように息を吐いた。
「そう、これは夢です。夢のようなもの…」
「そ! だから、誰を選んでも問題なしっ」
 後ろからひょこっと顔を出したのはウサギ耳の男。
「どの神を選んでも、子どもは必ず授けられる。しかも健康な、強い子だ」
 浅黒い肌をした男が続ける。
「…というわけですので、」
と、角の男が引き受ける。
「この中から一人、お選びください」
(夢…? これは、夢だから、)
 ──ばあちゃんが死んでから、ずっと。
 一人で暮らしてみて。
 その寂しさが身に染みた。
 地上の平和とか繁栄とか、どうでもいい。
 短命の呪いすらも、私にはどうでいいことだった。
 ただ、もし叶うのならば。
(家族が欲しい)
 ばあちゃんが、赤子の私を拾った時の気持ちが、今なら分かる。神が授けてくれた──なんて、口が裂けても、彼女は言わなかったけど。
 でも、もし、私の願いが叶うなら。
「では、貴方に──、」
 手を伸ばした相手は角の男──鹿島中竜と、彼は名乗った。
 緑の髪の色が、青髪の私に似ていて、親近感を覚えた。あと最初に話しかけてくれたので。
 彼はちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに優しく微笑んで、私の手を取ってくれた。
「…元気な子が生まれますよう」
 そう言って、彼は私の額に口付けた。



(……変な夢)
 目が覚めたら、いつもの朝だった。
 いつもの掘立小屋で、いつもの湿った布団に、いつもの通りに一人だった。
 身体を起こして、はぁ、と溜息を一つ。
「…ごはん、食べよ」
 それから一週間ほど何もなく、今まで通りに日々を過ごした。
 春先はいい。野蒜やタラの芽、竹の子などが豊富に取れるし、川で取れる魚も増える。食に困らないどころか、気候も暖かくなっていくので、夜、震えながら眠る必要もない。
 そんな平穏は、ある日、突然、終わりを告げた。
「初めまして、当主様! イツ花と申します!」
 そう名乗り上げた少女は、8歳くらいの少年を連れ立っていた。──青い髪も緑の目も、私にそっくりな男の子。
 あの夢は正夢だったのか、とその時になって、ようやく理解した。




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