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一之関家 2代目 継太

2019.11.29 23:37|俺屍
 一人っ子プレイで、子の視点で綴る形式。
 2代目 継太(けいた)の記録。




「まさかその話、信じたの?」
 朝食の席で箸を止め、オレは母・千歳の顔をマジマジと見た。
 口の中にメシを詰め込んでいた彼女は無言で頷く。
「…信じるかね、普通」
 夢の中で神のお告げがあって。
 数日後に、謎の女に連れて来られた子ども。
 ──どこの馬の骨ともわからないのに。
 千歳はもぐもぐと口の中のものをよく噛んで飲み込むと、オレの顔を見て笑った。
「信じるよ。だって、そんな髪と目の色をした子ども、私の子に決まってるもの」
 そんな髪と目の色──というのは、浅葱色の髪と、若葉色の目のことだ。大陸に住む人の中には黄金の髪色や、土色の肌を持つ人種もいると聞くが、京の都に住むヒトのほとんどは黒や茶の髪と目の色をしていた。
「そりゃあ、そうだけどさぁ…」
 ……にしたって、単純過ぎる。
 母の千歳は子ども時代に苦労したせいか(本人にその自覚は全くないが)、「幸運」に関してはあまり深く考えないタチだった。オレが彼女の元にやってきたことも「神様が授けてくれた」と表現するような人である。
 髪と目の色のせいで周りから疎まれてきたことですら、オレが同じ色で生まれたことで我が子だと分かったからかえってよかった、くらいに考えている。
 前向きと言えば聞こえはいいが、少々呆れてしまう。
「…今月の交神の儀、延ばしてもいいんだよ?」
 千歳は唐突に言った。
 やるよ、と即座に答えたが、見抜かれていたか。こういうのを、“母親の勘”というのだろうか?
 千歳に自身の出生について聞いたのは、何てことはない──今月に予定されている交神の儀の参考にしたかったからだ。神と子を成す、という儀式の一端を、神である父と母の馴れ初めを聞けば、少しは分かるかも、と思ったのだが。
(結局、何も分からなかったなぁ)
 朝食を終え、一息ついたところで、神様一覧の巻物を広げて眺める。
 何度となく見たが、どうにもピンと来ない。イツ花は「顔で選べばいいんですよ」と簡単に言ってくれるが、そういうものでもあるまい。
(顔の好みなんて、そもそもねぇしなぁ)
 特異な外見から、子どもの頃から近所のガキどもには虐げられてきた。そんな状態で「友達」と呼べる相手は当然いない。まして、結婚相手など──市井で耳にする、同じ年頃の男たちは(中身は悪ガキと変わらないが)来年の元服を控え、やれどこそこの娘が美人だの、角の娘は働き者で優しいだのとよく話し合っている。だが、恋も欲も、オレにはいまいち分からなかった。それでも、相手は選ばねばならない。
 気分を変えようと思い、巻物を片付ける。庭に出て素振りでもしようか? 身体を動かせば、少しは気が晴れ、何かとっかかりが得られるかもしれない──そう思って、居間へ出て、仰け反った。千歳が籠を頭から被って座っていたからだ。
「……何してんの?」
「あぁ、継太。ちょうど良いとこに、」
 籠を上げて、千歳は顔を出した。髪を切ろうと思って、と言うその手にはハサミが握られている。
「髪? 籠、被って?」
「こうやると毛先が揃うんだよ」
 ばあちゃんに習ったんだ、と彼女は笑う。
 ばあちゃん、というのは彼女の育ての親だ。何でも大江山の麓に捨てられていた赤子の母を、「見捨てたら目覚めが悪いから」という理由で拾い上げ、育ててくれた人らしい。オレも千歳も、朱点に掛けられた短命の呪いのため、常人の何倍もの速さで成長する。不気味な髪と目の色、異様な速さで大きくなる赤子──しかも拾った場所が鬼の親玉のお膝元である。よくそんな奇怪な生き物を放り出されなかったな、とオレでも思う程度には、豪胆な人物だったようだ。
「イツ花にやってもらおうと思って、居なかったから、自分でやろうかなぁ……って、やっぱり、無理そうだから。継太、お願いできる?」
「えぇー……オレが?」
「ちょっとハサミで切るだけだよ、ほら!」
と、千歳はオレにハサミを握らせる。
 母の、とはいえ、女の髪を切るのは躊躇われた。髪は女の命、という言葉さえある。それを、籠を被って適当に切り揃えて良いのか──という葛藤があった。
「大丈夫だって。失敗したって、髪はまた伸びるんだから!」
 その迷いを見透かしたかのように、千歳はオレを促す。ままよ!と覚悟を決めて、彼女の髪を一房手に取って、ハサミを入れた。
 千歳の髪は一本ずつ見れば、白銀のように見えた。これが束になると、淡い水色になる。
 恐る恐る籠の縁に沿って彼女の髪にハサミを入れる。
 千歳はそんなオレの気持ちをよそに話し続けた。
「前に切った時はイツ花にやってもらったんだけど──そう、ちょうどアンタが来た時だよ。三ヶ月に一度くらい切らないと、首に触って気になってね」
「そういうもん?」
「そういうもん」
と、千歳は笑う。
 オレの髪質も彼女とよく似ていたが、オレの場合は切るのが面倒で伸ばしっぱなしにして紐で括っていた。一度切ると首に触るから切り続けなければならない、というのは、何とも皮肉だと思った。
 ジャキジャキ、とハサミを動かしていると、「…ふふっ」と千歳が笑った。
「…何?」
「いやぁ、私は果報者だなぁ、と思ってさ」
 しみじみと彼女は続ける。
「嫁の貰い手なんかないと思ってたから、早々に家族は諦めた。それがこうして息子に髪を切ってもらえるなんてさ」
「…そんくらいのことで、」
「“そんくらいのこと”が、私たちには難しい」
 ──わかってる。
 当たり前のことを当たり前に過ごすには、自分たちが背負わされた運命は過酷で、あまりにも短い。
 だから、と千歳は言う。
「食卓を誰かと囲むこと、山で採った果実や川で捕らえた魚を誰かと分けて食べること、自分のものじゃない洗濯物や、増えていった食器……そういうのを見ると、嬉しくて」
「大袈裟だなぁ」
「大袈裟かねぇ」
 はい、終わり!と千歳の肩を両手で叩く。
「だから、アンタが生まれて来てくれて、本当によかったって──ありがとう」
 ハサミを受け取って、彼女はにっこりと俺を振り返った。その「ありがとう」は髪を切ったことに対するものだったのか、何なのか。
「家族ができるっていうのは、だから、そう悪いもんじゃないさ」
「……例え、その子に辛い運命を背負わせることになっても?」
「……うん」
 千歳はそう言って、笑った。
 本当に嬉しそうに、満足そうに。
 母のその笑顔があって、オレは交神の儀に向けての──子を為す覚悟が、ようやくできた。




 紅葉も盛りの神無月。
 天界の二つ扇ノ前様の元からやって来たのは、小さな女の子だった。
「おばあさま、おとうさま、はじめまして」
 そう言って、娘は折り目正しくお辞儀をする。礼儀作法は二つ扇ノ前様に仕込まれたらしい。
 オレは、というと、その娘の出で立ちに驚いていた。「よろしく」と声を掛けて彼女を抱き上げ、苦笑する。
「それにしても、本当に火の神の子かぁ? 髪も肌もまっちろで、」
 娘は浅葱色の髪に、空色の眼をしていた。
「鹿島様の血が色濃く出たかねぇ?」
 横から孫の顔を覗き込んで、千歳は笑う。
 娘は何とも答えられず、困ったように眉根を寄せていた。
(──なるほど、これがオレの娘ね)
 存在すら確かではない父の、水の神だという彼の血脈は、確かに繋がった。
「お名前はいかがなさいますか?」
 イツ花の問いに、オレは小さく頷く。
「名前は美雪。まだ雪は見たことないけど、きっと白くて美しいのだろう。その白さに恥じぬ子になりなさい」
 はい、おとうさま!と娘──美雪は元気に声を上げた。




→ 3代目 美雪


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