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一之関家 3代目 美雪 02

2020.01.13 20:02|雑記
 一人っ子プレイで、子の視点で綴る形式。
 3代目 美雪(みゆき)の記録。その2(終)。





 交神の儀の初日は、何をどう過ごしたのかよく覚えていない。
 夕飯が出て、一人で食べたような気がする。
 それでも、頭の中ではずっと一つのことがぐるぐると回っていた。
 
 ──あんた…、なんで、子を得ようと思った?
 
 翌日も似たような感じで、朝ご飯を食べてから、ぼんやりと縁側に座っていた。タタラ様はお忙しいのか、今日はまだ姿を見せない。
(……そんなこと、考えたことなかった)
 言われてみれば、考えるべきことだったのかも知れない。
 一之関家は、短命と種絶の呪いを背負って鬼殺しを生業とする。神の血を継ぐため、その力は強大だが、寿命は二年もないという。その間に出来得る限り、鬼を狩り、神と交わり、血を繋ぎ──いつか悲願を達成するその日まで、戦い続けることが義務付けられている。
 子を為す、ということは、自然とその子にもそれらを負わせるということだ。
(お父さまやおばあさまは、どう考えていたんだろう? 生きているときに聞いてみればよかった……)
 そう思えばこそ、短命という我が一族の呪いが恨めしい。
 ぐす、とまた涙ぐんでいると、不意に声が掛かった。
「こら、泣きウサギ。目が溶けるぞ?」
 涙を拭いながら振り返ると、タタラ様がそこに立っていた。慌てて、私は立ち上がって、朝の挨拶をする。
「お、おはようございます」
「おう。飯は食ったか?」
 はい、と私は頷く。
 ──朝、身支度を整えて居間へ行くと、一汁三菜の立派な膳が用意されていた。人の気配がないので不思議に思っていたのだが。
「あの、朝ご飯って、タタラ様がご用意を……?」
「まさか。下女かなんかだろ」
 そういった者がこの空間にいるとは思えないのだが──神様の世界では普通のことなのだろうか? 何とも不思議な感じがする。
「今日はどうする? 天界案内してほしいなら、付き合うが」
 特に案内してほしい場所などないが、この世界には興味があった。
「あの、では、散歩に」
「散歩?」
「天気が良いので、」
 空を指さして言うと、タタラ様は「わかった」と言って苦笑した。
 
 
 
 田園の中を歩くには気持ちが良かった。
 あぜ道を先頭きって進む。
 ヒトの姿は見えないのに、サラサラと田んぼに水が張っているのが面白い。季節は水無月くらいだろうか? 下界とここの空間では時間の流れが歪んでいるとタタラ様が昨日説明してくれたが、時期は同じようだ。
 ──と、思ったのだが。
「ノビルが生えてる……!」
「あ?」
 しゃがみこんで草を一束引っこ抜く。根っこの先に白い球のようなものがついている。
「タタラ様、ノビルですよ! この時期に!!」
 よく分かっていないようで、タタラ様は首を傾げている。
「あ、ツクシも! あっちにはフキノトウ! カタバミまで???」
 いくつか手で採って、確かめる。本物だ。私は混乱する。
「季節がめちゃくちゃです。冬の植物も夏の植物も一緒になって生えているなんて……!」
「……そうなのか?」
「そうです! これは初夏に生えるもので、こっちは晩冬に、」
と説明しながら、採っていったら、手一杯に野草が集まった。着物の裾をつかんで風呂敷代わりにする。
「籠を持って来るんでしたねっ」
「…それ、どうすんだ?」
「食べるんですよ?」
「へぇ…、」
 不思議そうにタタラ様は集めた草の山を見ている。
「神様のお食事ってどうなさっているんですか?」
「基本的に飲み食いはしない」
 えっ、と私は声を上げる。
 タタラ様は続けた。
「神の栄養源は奉納点だ。信仰心と置き換えてもいい。普通のヒトだと祭りやお供え物で届けられるが、おまえらの一族は鬼狩りでそれが集められるようになっているらしいな」
「そう…なんですね…」
「そういう仕組みを整えたのも、太照天とその周りの神々──俺は知っての通り、鬼に封じられていたから、そのあたりのことはよく知らん」
 そう言って、タタラ様はそこらの草をむしって私に見せた。私は首を横に振る。それはブタクサ。ヨモギに似ているが、食べられる草ではない。
「でも、昨日は葛湯を召し上がってらした、」
「食べられないわけではない。飲み食いは趣味みたいなもんだな」
「趣味、」
 ヒトと神とはこんなにも隔たっているものなのだろうか。
 ……ってことは、もしかして。
「葛湯が植物から出来てるって、御存知ない…?」
 恐る恐る尋ねると、そうなのか!?とタタラ様は驚いた顔をした。
「そうです。秋頃に生える、つる草で。その木の根から粉を、」
「根から粉が出るのか!?」
「えーっと、根を切って叩いて、ですね、」
 私もクズを調理したことはなかった。このやり方は、祖母から伝え聞いたもの。
 一通り説明を終えると、タタラ様は感心したように大きく頷いた。
「ヒトってのは、食べるためにいろんなことを考えるんだなぁ。俺は製鉄が専門だから、それ以外のことはからっきしだ」
「下界は鬼のせいで不作続きですし、民は食べるのに必死です。これも全部、生活の知恵──、」
 そこまで言って、ボロボロっと大粒の涙がこぼれた。
「お、おい、なんだ!?」
「す、すみません…!」
 こぼれた涙を手で拭おうとも、次から次へと流れ出る。
 仕方ねぇなぁ、とタタラ様が困ったように呻いた。あぁ、また呆れられてしまう、と気持ちが折れかけたところ、体を抱きすくめられて驚く。ぽんぽん、と軽く背中をさすられる。
「まぁた、親父さんのことでも思い出したのか? 飽きずによく泣く…」
 荒い口調とは反対に、彼のその手は優しかった。そういえば、父も幼い私をこうやってあやしてくれた──思い出したら、また泣けてきて、タタラ様の胸にしばらく顔を埋めていた。
「…落ち着いたか?」
 しばらく、ぐすぐすやっていたら、窺うようにタタラ様が顔を覗き込んだ。
 両手で濡れた頬を挟まれ、隻眼の目と合う。
 気恥ずかしさから、頬が熱くなるのが自分でもわかった。
「は、はい」
「…なら、いいけどよ」
 そう言って、タタラ様は私から離れる。
 ──それが、少し寂しい、と思う。
「あの、タタラ様」
「ん?」
「やっぱり、私と夫婦の契りを結んでくれませんか?」
「……はぁ?」
 私の申し出に、彼は素っ頓狂な声を上げる。
「あのなぁ、意味を分かって、」
「分かって言っています。抱いてください、と申しているのです」
 重ねて言うと、タタラ様は言葉を失った、らしい。
 ぎょっとした顔で私を見てから、息を吐く。
「なんで、そうなる…」
「…野草の知識、教えてくれたのは祖母と父でした」
 私は足りない頭で考えながら、必死に言葉を繋ぐ。
「祖母は物知りで。彼女も育て親に教わったと言っていました。でも、私たち一族の寿命は短いから、すべての季節の草花を知ることはできません。知らない季節の草花は、だから、父が絵を描いて残してくれました。父は絵がとても上手なんです。絵草紙にして、まとめてくれたものがあるの…。その草花の食べ方や採れる季節を、祖母が書き添えて──だから、初めての季節の植物でも、私には見分けられます……」
 着物の裾に溜めた、野草の数々を。
 その名前の一つ一つ。
 ──祖母が、その親から繋いでくれた知識。
 ──父が、それを絵にして残してくれたもの。
「父も祖母も穏やかな人でした。きっと、とうに覚悟を決めていたから……私が下界へ来訪した翌月は11月。大江山が開くその月です。祖母は当たり前のように私を訓練したし、父は一人で九重楼へ出かけて行った。12月になって私の初陣時も、鳥居千万宮を選んで、山へは上らなかった…! 二年も寿命のない私たち一族が、その年の大江山を見送るということの意味を、分からないほど、私は愚かじゃありません……!」
 ぼろぼろと涙をこぼしながら、私は、私の家族について語った。
 私はずっと誰かに聞いてほしかったのだ。
「…自分たちが死ぬとわかっているのに──それなのに、父と祖母と過ごした時間は、穏やかで、優しくて、」
 ──こんなにも、愛されて育った、と。
 ぐい、と乱暴に涙を拭い、タタラ様に対峙する。
「あの人たちから受け取ったものを、私は繋げたい。私の子どもに、──短い寿命だから、不幸だなんて、絶対に言わせない! 全力で、大好き!って言ってあげたいの。だから、その……あの、タタラ、様……」
 勢いでそこまで言ったものの、自分が何を口走っているのか理解して、頭のてっぺんまでカーっと血が上った。
 …は、はしたない。
 …抱いてくれ、だなんて!!
「……その、あなたが、お嫌でなければ、」
 最後の方はほとんど小声で聞こえなかっただろう。
 ぶはっ、と噴き出す声が聞こえて、私は顔を上げた。と同時に、再び抱き締められて、耳元に接吻される。
「……!? あ、あの!?」
「ほんとに、おまえは訳がわからないな!」
 顔を上げてタタラ様は見れば、彼は上機嫌に笑っていた。
「父親が恋しい、とずっと泣いているかと思えば、“抱いてほしい”? 大胆なことを! もっと色気のある誘い方をすればよいものを!」
「…い、色気、ですか?」
「いい、いい! 俺の降参だ! 負けたよ、まったく」
 よっ、と声を掛けられて、足元をすくわれる。
 タタラ様に腰元から担がれるような格好になって、私は大いに慌てた。
「…集めた野草がっ」
「…馬鹿者め。諦めろ」
 呆れたように言われて、頬をべろりと舐められた。
「…塩の味がする」
 涙の味です、と言う前に口を塞がれた。
 ごくん、と飲み込むような深い接吻に、私は目を閉じる。



 下界から戻って、一か月後。
「当主様、お喜びください! かわいい女のお子様が、なんとお二人も!」
 イツ花の物言いに子どもたちを迎えれば、よく似た女の子が二人そろって座っていた。
 あぁっ、神様!!と思わず手を合わせる。
「一度に、二人も家族が増えたっ。ありがとう、タタラ様っ!!」
 きょとんとする二人の娘を両腕で抱き締める。
 娘の名は、美沙と千沙と名付けた。
 私と、祖母の名を一つずつ繋いで。
「大好きよ、あなたたち──大好きなんだからっ……、」
 この子たちには、さて、何を最初に教えようか?
 季節は夏。
 草花は、いくらでも繁れる頃のことだった。



→ 4代目 千沙
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